「熊だと!?」
「ジュリエット嬢を泣かせるとは許せん! どこだ! 成敗してやる!」
「俺たちがジュリエット様をお守りします!」

 しかし、男たちの戦意は一瞬にして喪失することに。

(オリアーナ様は何かお悩みの様子……。あのお方の睡眠を妨げるとは……不倶戴天の敵! 生きた者が原因ならば、このわたくしが生かしてはおきませんわ!)

 オリアーナを悩ませるような悪党は、決して容赦はしない。
 ジュリエットは煮えたぎるような憎悪を抱き、手のひらの上に炎を作り出した。ばちばちと音を立てて燃えたぎる様に、男子生徒たちは怯んだ。

「消し炭に変えてやる…………」

 地を這うような声で呟き、拳をぎゅっと握る。男子生徒たちは、ひっと悲鳴を上げて、数歩後ずさった。
 ジュリエットは強い。――この場にいる誰よりも。それに彼女は守られれるより守りたいタチなのだ。

 周りの生徒たちが魔法の炎に怯えていることに気づき、ジュリエットははっと我に返る。炎を消失させて、何事もなかったように優美に微笑む。

「ふふ、申し訳ありません。驚かせてしまいましたわね」

 淑やかに歩みを再開するジュリエット。しかしその足取りはいつもより早い。なぜなら、一刻も早く想い人のためにタオルを調達しなければならないから。
 医務室でタオルを借り、教室へ戻る途中。一人の女子生徒に声をかけられた。

「あの……っ。ジュリエット様……!」
「あらあら可愛い小鳥さん。わたくしに何かご用?」
「は、はい。えっと……」

 その少女は、一通の手紙をこちらに差し出し、控えめに言った。

「あ、あの……こちらをレイモンド様に、お渡ししてほしくて……」

 彼女の頬が赤く染る。この手紙は、ラブレターのようだ。ジュリエットは、顔には出さないが内心で感激していた。