ジュリエットは、悩ましげな表情で廊下を歩いていた。
 艶のある桃色の髪に、長いまつ毛が囲う瞳。その歩き姿は、誰もが息を飲むほど美しい。立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は――燃えるような赤い薔薇に喩えられた。

 そんな彼女が物憂げに歩く様子に視線が集まる。特に、男子生徒は惚けた顔を浮かべて、彼女に羨望を向けた。

 始祖五家のひとつ、エドヴァール公爵家の令嬢という文句のつけようのない地位。
 火魔法を操るずば抜けた才能。
 圧倒的な怜悧な美貌。

 ジュリエット・エドヴァールは、男女共に憧憬を集める、格式高く麗しい令嬢だ。

 しかし。彼女の内心は荒れていた。

(どうしましょうどうしましょうどうしましょうどうしましょう〜〜〜〜! 麗しのオリアーナ様のお顔に……美しい瞳の下に――)

 ジュリエットは立ち止まり、両手で顔を覆いながらすすり泣いた。

「クマが……っ」

 そう。今朝オリアーナを見たとき、いつもは健康的な顔色がすこぶる悪く、滑らかな肌は荒れ、目の下にはくっきりとしたクマをこしらえていた。――完全に寝不足だ。

 オリアーナを見た瞬間、ジュリエットは思わず教室を飛び出していた。――蒸したタオルを用意するために。
 一刻も早く、彼女の目元を温め、血行の改善を計らなければ。医務室で仮眠を取るように懇願したが、オリアーナには拒まれてしまった。

 ジュリエットの切なげな様子に、男子生徒たちがざわめく。