(もっと僕に力があれば……姉さんを両親から守れるのに)

 拳をぎゅっと握り締める。レイモンドがどんなに彼女を守りたいと思っても、今の状態では何もできない。

 始祖五家の当主は、身体に紋章を有する者が務めるという習わしがある。神に選ばれた人間の体に家紋の紋章が浮かび上がると、正式な世代交代となるのだ。大抵の場合は当主が死亡するころに、新しい当主が選ばれる。

 今は父親がアーネル公爵家の実権を握っており、レイモンドは何も口出しできない。逆に言えば、神に選ばれた紋章さえ発現すれば、両親を思うままにできるということ。

(あと少し、生きていられれば……)

 おもむろに、レイモンドは服の上から、左腕の手首を撫でた。

「セナ。僕が死んだら、代わりに姉さんを守ってやってください」
「……うん。分かってる」