レイモンドは小さく息を吐いた。

「――聖女としての資質、ですよ。聖女はその存在だけで人々に敬愛されるもの。姉さんが目立つのは、聖女の器だからでしょう」
「どうして君がそれを……」
「セナも気づいているのでしょう。……姉さんから、聖女の呼び笛を現出させたと聞きました」
「…………」

 オリアーナは、なるべくして選ばれたのだと思う。思い遣りがあって正義感が強い。今までは家庭環境に抑圧されて、彼女らしさが抑えられてきたが、その高い精神性は聖女としてふさわしい資質だ。

 しかし彼女は、魔力を有していない。なぜならオリアーナが持つはずだった魔力を、レイモンドが奪ってしまったから。
 もし今のオリアーナが聖女の座に据えられ、万が一戦闘に出されてしまえば、早々に殉職するのがオチだ。聖女が死ねば、また新しい聖女が生まれる。軍部が『非魔力者』の聖女を大事にせずに使い捨てにするだろうということは見え透いている。家族が彼女を出来損ないとして蔑ろにしたように……。

「リアが次期聖女候補ということは、教員の中ではもはや公然の秘密。……世間にもずっとは隠しきれないだろう」
「……そうですか」

 オリアーナの進む道は茨の道だ。婚約者に裏切られ、両親の言われるがままに身代わりを押し付けられ、気の毒な人だ。本人はいつもへらへらと平気な顔をするけれど。