「わたくしとレイモンド様の逢瀬を邪魔しないでくださいまし」
「はぁ? 俺とレイモンドは親友だ」
「わたくしの方が彼との付き合いが長いですわよ」
「肝心なのは付き合いの長さより、濃さだ。な? レイモンド」

 こっちに確認されても困る。というか、オリアーナにとってはリヒャルドは付き合いは長くもないし薄い。

「えっと……どう、なんでしょう」

 曖昧に笑ってはぐらかすオリアーナ。ジュリエットとリヒャルドはしばらく小競り合いをしていた。

 修練場での一件からも、変わらずくっついてくる彼。向かいの椅子を引いて腰を下ろし、テーブルに教本を広げた。

「レイモンドは化学得意だろ? ここを教えてほしいんだ」

 リヒャルドは教本の印をつけている問題を指差した。彼は意外と真面目で、こつこつ勉強するタイプらしい。教本に書き込みが沢山ある。

「ああ。そこ、難しいですよね。モル質量塩化ナトリウム27.4、ナトリウム10。体積は標準状態を換算して、この方式に当てはめて」
「ええっと……ここを5乗して……NaとClをかけて……。0.32か」
「正解。ここは発展問題なので、テストには出ないと思います。前のページまでの基礎を復習しておくといいかもしれません」
「助かる」

 彼はアドバイスを熱心にメモしていた。オリアーナはリヒャルドの問いに丁寧に応えた。すると、隣でやり取りを聞いていたジュリエットが顔をしかめた。

「何語――ですの……?」
「一応同じ言語だけど。ジュリエットもここの範囲勉強しておかないと、30点以下は追試だよ」
「ツイシ……? なんですのそれ、美味しいのかしら」
「…………」

 彼女はたぶん、どこに行っても逞しく生きていける気がする。

 リヒャルドが来て騒がしくなるかと思いきや、彼は真面目に勉強に取り組んでいて、オリアーナのやる気も上がった。
 一方、ジュリエットは机に突っ伏して眠り始めた。ちらっとノートを覗けば、『レイモンド様大好き♡』と落書きしてある。……本当に彼女は、何をしに来たのだろう。

 二時間ほど勉強したところで、リヒャルドがおもむろに尋ねてきた。