「セナ! ここにいたんですか、探しましたよ……って、どうしたんです!?  二人ともひどい怪我じゃないですか!」

 オリアーナと手分けしてセナを探していたレイモンドが後からやってきた。事の顛末を知らない彼は、怪我をした二人を交互に見て、オリアーナに苦言を呈した。

「姉さん! さてはまた喧嘩したんですね。セナのことまで巻き込んで……。また父さんたちに叱られますよ!」

 オリアーナはよく喧嘩をする。路上で悪漢に絡まれている女を助けたり、不良たちの喧嘩の仲裁したり、窃盗犯を捕まえたり。

 彼女は子どもながら、相手が大人でも面倒事に真っ向から顔を突っ込んでしまうのだ。
 さっきの子どもたちが、オリアーナのことを化け物だと言っていたが、彼女は実際に化け物級に強い。魔法は使えないが、体術や剣術の腕は、逸材ともてはやされるレイモンドより遥かに上だ。

「ち、違うんだレイモンド。リアは俺のことを庇って――」

 セナが弁解しようとすると、オリアーナな人差し指を唇の前に立てて『内緒』のポーズをとった。セナがいじめられていたことを隠して、沽券を守ってくれたのだ。

「はは、ごめんごめん。次は気をつけるから」
「次は次はって、それはもう聞き飽きましたよ。姉さんが怪我をして帰る度、僕がどれだけ心配するか分かっているんですか!? 魔法が使えないんですから、無茶はしないでください」

 彼女が怪我をするのは、いつだってセナや誰かを助けるためだ。しかし彼女は、言い訳ひとつしない。

「全く。そんなボロボロのまま帰らせませんよ。どこが痛むか教えてください。治癒魔法をかけますから。喧嘩のことはここだけの秘密です。僕まで叱られるなんて御免なので」
「じゃあレイモンドも共犯だね」
「姉さん! あなた、反省してるんですか!?」

 がみがみと姉を説教しながら、手際よく治癒魔法を発動させていく。オリアーナの尻拭いをするのは、真面目な弟の役割で。
 アーネル公爵家の逸材の治癒魔法は、瀕死の怪我さえ治してしまうレベルのものだ。身体中の傷跡が、跡形もなく消えていく。双子が揉めている横で、セナはくすくすと笑った。

「セナ、どうして笑ってるんです?」
「あ……いや、ごめん。二人とも、俺のことを探しに来てくれてありがとう」
「当然でしょう。あなたを一人置いて帰ったら、叱られてしまいますから」
「そうだね」

 レイモンドは優等生だ。規律を守り、大人の言うことをよく聞くため、周りからの評価も高い。感情に動かされるタイプのオリアーナに対し、レイモンドは理性的で、周りを見て冷静に動く。双子で見た目もそっくりなのに、中身は対極的。でも二人は対極だからこそいいバランスだと思う。

 セナはおもむろに、自分の顔に手を添えながら尋ねた。

「あのさ、俺の顔って女の子みたいで……気持ち悪いと思う?」

 間を置かずに答えたのは、オリアーナだった。

「色んな個性があって当たり前だ。気持ち悪いなんて思わないよ」

 屈託なく笑うオリアーナに続いて、レイモンドも言った。