魔法の杖を現出させる儀式で、オリアーナは小ぶりの笛のようなものを出した。それを見て血相を変えたマチルダに取り上げられてしまったのだった。

「レイモンド。お前――魔法が使えねぇな?」

 どきり。
 エトヴィンは表情を変えず、淡々と尋ねた。さっそくズバリ的を得た指摘を受け、固唾を飲む。

「胸に提げた魔法石で上手いこと誤魔化しているみてぇだが、俺の目を欺けはしない。俺には人間が魔力の源にしている――魔力核を目視する能力があんだ。お前にはその魔力核がない」

 彼は学院では魔法化学を教えているが、本業は魔法医学の研究者だ。特に、魔力の原理に精通しており、魔力核の第一任者としての顔を持つ。
 しかし、まだ目の前にいるのがレイモンドではなく、双子のオリアーナとは気づいていないようだ。

「いつからそうなった? 入試んときの成績は見事だった。魔力を供給する石を使ったところで、あの実力は発揮できないはずだ」
「入学する少し前に……異変が起きました」
「そうか」

 少し前どころか、オリアーナには生まれたときから魔力核はなかった。魔法が使える者は魔力核を有し、そうでない者は魔力核を有さない。全人口の中でも核を持つ人間の方が少数派なので、オリアーナが特別という訳ではないが。

「魔力核消失の原因解明は今後の課題として。――もうひとつ」

 ローブの内側から透明の小瓶を取りだして、ことんとテーブルの上に置いた。小瓶の中には、オリアーナの杖の残骸が収められている。