授業終了後、エトヴィンに言われた通り化学準備室に向かった。だだっ広い廊下を歩いていると、後ろから聞き慣れた声に呼ばれる。

「リア」
「……! セナか。何?」
「エトヴィン先生に呼ばれてただろ。俺も行く」
「なんで君まで……」

 彼は腕を組みながらため息をついた。

「お前、嘘つくの下手だろ? 正体を疑われたときの誤魔化し役が必要だと思って」
「はは、君は本当に気が利くね。助かるよ」
「どういたしまして」

 思えば、セナはオリアーナが困っているとき、いつもさりげなく手を差し伸べてくれた。

「やっぱり、持つべきは頼りになる()()()だね」
「…………」

 笑いかけると、彼は物言いたげに眉をひそめた。
 二人で並んで廊下を歩く。子どものころはオリアーナの方が高かった身長はいつの間にか追い越されて、体つきも彼の方がずっと逞しい。
 小さなころセナは、華奢で女の子のように愛らしい風貌をしていて、よく虐められていたのを思い出す。いじめっ子から助けるのはオリアーナだった。

 セナが成長した姿を横目で見ていたら、まもなく準備室に着いた。そっとノックすると、奥から入室を許可する声が返ってきた。

 とっちらかった部屋の中で、エトヴィンが足を組みながら椅子に座していた。彼は、オリアーナの隣にいるセナをいぶかしげに見据えた。

「なんでお前までいるんだ?」
「『呼び笛』について話すおつもりでしたら、俺も同席させてください。始祖五家の者として」
「心配して着いてくるなんて、お前はそいつの母ちゃんか? まーいい。二人ともこっち来て座れ」

 呆れながら手招きされ、向かいの椅子に座った。
 確かにセナはオリアーナには過保護で、やたらとオリアーナの世話を焼きたがる。言われてみたら母親みたいだ。

(呼び笛って……入学式典のときのあれか)