呼びかけたがすでに彼女は意識がなかった。腕の中で失神している友に困惑していると、オリアーナの目の前にエトヴィンがやって来た。冷えた眼差しでこちらを見下ろして言う。

「レイモンド。お前なんで魔法を使わなかったんだ?」
「え……」
「雨に濡れているのはお前とジュリエットだけだ。他の生徒たちがこの状況に魔法で対応する中、唯一お前だけは肉体的な反応を起こした」
「それは……マチルダ先生に杖の使用を禁じられていて……」
「何も、杖に頼るだけが魔法じゃねぇだろう」
「…………」

 彼の問いかけに、沈黙するしかなかった。魔法と共に生きてきた人間なら、息をするように魔法を操ることができるだろう。でもオリアーナは、生まれてから今まで、非魔力者だったのだ。非常時に脳が指示を出すのは身体を動かす方で、魔法を使うことではない。

 エトヴィンは小さくため息をついた。

「授業終了後に化学準備室に来い。お前には色々と聞きたいことがある。その胸に引っさげた石についてもな」
「……!」

 まさか、魔法石の存在に気づかれているとは。何らかの疑いを持たれているのだと理解し、「分かりました」と承諾した後で肩を竦めた。

 そしてその様子を、セナが遠くの席から見つめていた。