魔法学院に入学してから数週間が経過した。マチルダの指示で、自分の魔力を糧として杖を出すことを禁じられ、学院の備品の杖を借りている。しかし、仮にも始祖五家の者として人前であの小さすぎる杖を出すのは情けないので、ある意味助かっている。

 入学式に妙な杖を出した件をレイモンドに話すと、彼もマチルダやセナのように驚き、元々蒼白な顔を更に青白くさせた。しかし、何に驚いているのかは話してくれなかった。

「レイモンド様っ! ご機嫌麗しゅうございますー!」
「ああ。おは、」
「今日もお顔が整いあそばされておいでで!」
「ありが、」
「美の過剰摂取でわたくし、昇天してしまいますわぁ」

 オリアーナの姿を見て、日差しを防ぐように手をかざし、よろめくジュリエット。よく喋るので挨拶を返す隙さえない。

「……ジュリエットは朝から元気だね」
「うひゅぅ……レイモンド様がわたくしの名をお呼びに……。耳が溶けてしまいます」
「はは、元気なのはいいことだ」

 彼女の扱いには慣れているので、元気そうなところにしか触れない。色々とおかしなことを言っているが突っ込んだら負けだ。ジュリエットに引っ付かれながら学院の校門をくぐる。校舎までの道を歩いていると、生徒たちの視線が集まった。

「あ、『殿下』だ」
「超かっこい〜」
「朝から神々しいですわね。後光が差していますわ」

 そんな噂話が聞こえてきて、ため息をつく。

「いくらなんでも――『殿下』っていう呼び名はないんじゃ……」

 いつの間にか、学院の生徒たちからそう呼ばれるようになった。王子みたいだから、王子殿下から取って殿下だそうだ。