「レイモンド様ぁ。お会いしとうございました! 生徒代表の挨拶、素晴らしかったですわ」
「わっ、ジュリエット……!」

 セナとともに教室に入ると、真っ先に可憐な美少女がオリアーナに抱きつき、頬を擦り寄せて来た。彼女はこちらを見上げて、うっとりと目を細めた。

「レイモンド様は今日も世界一麗しいですわねっ!」

 縦巻きロールの長い桃色の髪に、ルビーのような赤い瞳をした彼女は、ジュリエット・エドヴァール。火を司る始祖五家エドヴァール公爵家の令嬢で、戦闘に特化した魔法士だ。

 彼女はオリアーナのしなやかな頬を両手で包み込み、感触を確かめるように撫でた。そして、恍惚とした表情で呟く。

「ああ……なんてお美しいの。精巧を極めた陶器のようなしなやかなお肌……。わたくし……来世はレイモンド様の皮膚を組織する細胞に生まれ変わりたいですわ」

 彼女は学院に入る前から見知った仲だが、可憐な見た目に反して、少々エキセントリックな性格をしている。

「皮膚になったんじゃすぐに免疫細胞に取り込まれて消化されちゃうよ。僕は来世も人間として君に会いたいけど」
「はぅぅ……お姿だけでなく内面まで素敵すぎます」

 にっこりと微笑みかけると、ジュリエットは感涙にむせぶ。後から教室に入ってきたセナが、「突っ込むとこそこじゃないだろ」と呆れている。すると、ジュリエットはセナの姿を見るやいなや、まるでゴミを見るかのような冷めた目を浮かべた。

「セナ様。レイモンド様とお話しているときに割り込んでこないでくださいまし」
「変わり身が凄いのな」

 セナはどうでもよさそうに返した。ジュリエットは再びオリアーナの手を取り、花が咲いたような笑顔で言う。