「――好きですっ。一目惚れしました!」

 魔法学院の生徒たちが通学に使う街道に、見目麗しい美男子が歩いていた。

 金糸のようなさらさらした短い髪に、凛とした眉に瞳。薄い唇。彫刻のように彫りの深い顔立ち。無駄な筋肉が一切付いていないすらりとした体躯。

 誰もが目を惹かれる美男子に、通りすがりの少女が声をかけた。

「その……私、女なんだよね」
「ええっ!?」

 予想外の返答に目を皿にする少女。けれど、引き下がらない。

「そ、それでもいいので、恋人になってください……!」
「!」

 顔を真っ赤にして訴えてくると、麗人は困ったように眉尻を下げた。

「気持ちはとても嬉しいよ。でもごめん。私には大事な婚約者がいるんだ」
「そ……うですか。じゃあせめて、お名前だけでも……っ」

 魔法学院の制服を着る彼女は、にこりと目を細めた。

「――オリアーナ・ガードル」

 その名前は、近ごろ話題の次期聖女のものだった。光の始祖五家アーネル公爵家出身で、元非魔力者の『出来損ない』。元婚約者や家族から冷遇されていたが、ひたむきで優しい性格をしていると聞く。そして彼女は、物語から飛び出してきた王子のようだとよく言われている。一度関わってしまえば、皆彼女のことが大好きになるとか。

 本来なら、言葉を交わすことすら許されないような身分差のある相手。けれどオリアーナは、道端でたまたま会った庶民に対しても気さくで。それこそ、物語の挿絵で見たことがあるような端正な笑顔を向けてくれた。

(本当に王子様みたい……)

 告白をした少女は、その噂に納得したのだった。



 ◇◇◇