「俺を頼れよ。リア」
「え……」
「嫌なことは嫌だって言え。困ったときは、俺を逃げ場にすればいい。何があっても俺はリアの味方だから」

 俺はリアの味方だから。その言葉で心がふっと軽くなった気がした。彼はオリアーナの頭をわしゃわしゃと搔き撫でる。彼に撫でられるのは、すごく心地がいい。

「……ありがとう、セナ」

 でもきっと、替え玉なんて間違ったことをしてはいけないと咎められるだろう。そう思って覚悟していたが、返ってきた言葉は予想と違った。

「とりあえず、目つぶって」
「目……?」
「いいから早くしろ」

 突然そんなことを言われて不審に思うが、大人しく従って瞼を閉じる。すると、閉じた瞼の向こうで、低く透き通るような声が呟く。


 《――認識操作(パーセプション)


 詠唱と共に、ほのかな熱が身体を包み込む。まもなく、セナに許可されて瞼を持ち上げたが、自分に変化が起きた実感はない。彼に、何をしたのかと尋ねた。

「リアの姿を見た人間が、一切の疑いの余地なくレイモンドと認識するように魔法をかけた」
「それ禁忌魔法じゃ……」

 人の精神を操作する魔法は、倫理的な問題で禁忌とされている。そして、人の精神に干渉する魔法は、闇魔法を操るティレスタム公爵家の専売特許だ。

 セナは口元に人差し指を立てて「これで共犯だな」と口角を上げた。あろうことかこの人は、オリアーナを咎めるどころか、不正の片棒を担ぐつもりのようだ。

「ほら、教室行くよ。――レイモンド」

 オリアーナは頷き、セナの背中を追いかけた。