桃色の扇子に弧をなぞるように白いファーが付けてあり、他にも真珠やダイヤなどの華やかな装飾がされている。
 彼女は、お手製の扇子を揺らしながらこちらを上目がちに見つめてきた。

(……つまり、これをしろと?)

 まとわりつくような期待の眼差し。オリアーナは呆れつつも、友人の願いに応えることにした。

「――エアでいいの?」
「え……といいますと?」
「僕は舞台の上じゃなくて、目の前にいるんだ。――ほら、おいで」
「〜〜〜〜!?」

 いたずらに口角を上げて、両手を広げる。ジュリエットは声にならない悲鳴を上げて、目を白黒させた。手から扇子が滑り落ちて、地面に転がる。夜なべしてきた品に土が付こうと、今の彼女はお構いなしだ。

「い、いいいいいいいざ、尋常に……っ」

 一体何の勝負なのだろうか。ジュリエットは自分にそう言い聞かせて、オリアーナの胸に飛び込んできた。

「きゃー、きゃああっ……! いい匂いがします、かぐわしい匂いが……ひゃぁぁっ!」
「はは、騒がしいな」

 ジュリエットの身体は、オリアーナよりも華奢ですっぽりと覆うことができる。腕の中でぶるぶる小刻みに震える彼女をからかうように、上から囁く。

「君は小さくて可愛いね」
「!?!?」

 はっとして顔を上げたジュリエットに、ウインクのサービスもした。

「ひゃぁぁ……推しが尊くて幸せ……」

 ジュリエットはたらりと鼻血を流しながら卒倒した。……ちょっと過剰にサービスしすぎてしまっただろうか。



 ◇◇◇



 テスト最終日が終わり、その日はジュリエットの他にセナとリヒャルドも一緒に昼食を摂ることにした。三階建てのモダン造りの食堂。一同は三階のテーブル席を取った。
 豪華なメンツに、周りの生徒たちの関心が集まっている。

「はー、やっと終わったぜ。……終業式が終われば夏季休暇だ! これやるよ。ジュリエット嬢はもっと食べた方がいい」

 リヒャルドは快活に笑い、自分の皿からブロッコリーを取り除いて、ジュリエットの皿に移すと、彼女は不服そうに眉を寄せる。

「ちょっと、リヒャルド王子。ご自分が苦手だからって押し付けないでくださいまし。ほら、一国の王族が好き嫌いしない!」
「む! んぐ……ほえはむむっこいーあいあいだ……やめ、む(※俺はブロッコリーは嫌いだ。やめろ)」