「やっとテストが終わりましたわぁっ! これで思う存分『推し活』できますわね」
「推し活? ちなみにテストはまだあと一日あるけどね」
「四捨五入したらもう終わったも同然ですわ」

 期末テスト三日目が終わった昼。オリアーナはジュリエットとともに食堂へ向かった。魔法学院には学生以外も利用できる大食堂がある。ジュリエットは軽やかな足取りで歩きつつ、意気揚々と言った。

「推し活……それは、舞台の役者さんや踊り子など、己の愛するお方を応援する活動……! そして、わたくしの推しは――こちらのお方っ! ででんっ!」

 彼女はドヤ顔でひらひらとこちらに手をかざした。

「魔法学院のプリンス、オリ……レイモンド様ですわ!」
「僕は俳優でも踊り子でもないけどね。それ、流行ってるの?」
「ええ、ええ。令嬢たちの間で大流行りですわ」

 ジュリエットは流行に敏感だ。
 すると、彼女が鞄から扇子を二つ出して、こちらに見せつけてきた。

「これをご覧くださいましっ」

 扇子には、『エアハグして♡』『ウインクして♡』と文字の刺繍が施されている。……なんだこれ。

「これは何?」
「ファンサ扇子ですわ。わたくし、昨日夜なべして作りましたの」
「テスト期間中に? さすがジュリエットだ。余裕だね」