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「本日は私たち新入生のために、この様な素晴らしい式典を開催してくださり、ありがとうございます。私たちはこの学院の格式と伝統を守り――」

 オリアーナは、新入生代表として壇上で挨拶を行った。この学院では毎年、入学試験で最も優秀な成績を修めた学生が、代表の言葉を行うのが習わしだ。レイモンドは首席入学者だった。

「ねえあの人、凄い格好よくない?」
「あのレベルのイケメンは初めて見たかも。彼女いるのかな」
「馬鹿ね、知らないの? あの方は始祖五家アーネル公爵家のご子息レイモンド様よ。一般人はとても相手にされないわ」
「ああ、公爵家始まって以来の逸材と言われてる有名人だよね」

 壇上で毅然と言葉を紡ぐオリアーナに、生徒たちは見蕩れた。男も女も、先生もうっとりしている。オリアーナは緊張知らずの豪胆な性格で、こういった役もそつなくこなす。その場馴れした態度に、誰も『出来損ない』の姉の方だとは思いもしない。

「――我々一同は、文武両道の校風の元、真摯に日々の授業に励み、実りのある学院生活にすることを誓います。――新入生代表、レイモンド・アーネル」

 オリアーナは優雅に一礼し、舞台から降りようとした。

 しかし、そのとき――。壇上に控えていた女教員がよろめき、床に倒れ込んだ。反射的に彼女の元に駆け寄り、半身をそっと抱き起こす。

「大丈夫ですか?」
「ごめんなさい。貧血で……」

 彼女は青白い顔で、申し訳なさそうにそう答えた。同性として、女性の身体に起こる不調はよく理解しているつもりなので、そっと「医務室までお連れいたします」と囁き、彼女を横抱きにして立ち上がった。

「僕の首にお手を」
「こ、こうかしら……?」
「はい。少し辛抱してください」
「悪いわねぇ」

 教員はすっかり女の顔で、頬を赤らめながらオリアーナの首に腕を回した。

 ざわり。

 まるで劇の一場面かのような、紳士的な振る舞いをする美男子の姿に、入学式典の会場はざわめいた。
 軽々と中肉の女を抱え、颯爽と立ち去っていくオリアーナに、ほとんど全ての女子生徒が心を奪われた。

 学院の生徒たちの心を、一瞬にしてかっさらった魅惑の貴公子レイモンド・アーネル。この一件は後に、『魔法学院のプリンス誕生秘話』として後世に語られることになる。