「全くキミは本当にスキモノだね。
普通に考えてこんなこと押し付けられたに決まっているじゃないか。利用されてるんだよ。なんでそんなことわからないのか。」

私が先生に配布物の書類整理を頼まれた時の婚約者様。

崩れそうなぐらいに書類を高く積んでいたんだもの、声をかけたら少し任されてしまったわ。先生は申し訳なさそうな顔をしていたけれど、助かったと言われれば気分がいいわ。それにお礼のクッキーをくださったの。最近話題のガトー紹介のものなの、先生の親戚らしくて。新作らしくて、嬉しいわ。そしてとっても美味しかったわ。


「別に普通だね、まあキミにしてはまあまあ似合ってるんじゃないか?まあまあだけどね。」

これは夜会で私が着飾ってた時の婚約者様。

新しく仕立ててもらった可愛いドレス。浅葱色のプリンセスラインは婚約者様の瞳の色。婚約者様からプレゼントされた首飾りと耳飾りは小ぶりの金剛石。癖毛でふわふわとした髪はハーフアップにしてかすみ草とマーガレットと散りばめたの。お父様もお母様もお兄様もお姉様も、侍女たちも褒めてくれたのよ。



私の婚約者は口が悪い。確かに私は頭が良くない。でも頭が悪すぎるとも思ってないわ。クラス分けも特別・上級・中級・下級の中でも中級だもの。考えることは得意じゃないし勉強もそこそこだわ。得意なことはおしゃべりかしら。人と話すことは好きよ。聞くことも好きだわ。流行りの歌劇とかドレスとかはもちろん好きだわ。でもそれ以外の、そうねセイジとかギョウセイとかも話題にするわね。私にとっては難しくて分からないことでもとりあえず聞くわ。その中に私の知っていることとか話せることはあると思うの。それに新しい発見とか考え方とかがあって好きよ。

まあ婚約者様はそんな私を呆れた表情で見てくるの。ヘキエキするほどではないって言ってたから、まあいいんじゃないかしら?


たまに意地悪なことを言われるのよ。私と婚約者様とお似合いじゃないとか婚約者様が可哀想とか。逆もあるわ、婚約者様は酷い、冷たい人だって。


「全くキミは本当にスキモノだね。
普通に考えてこんなこと押し付けられたに決まっているじゃないか。利用されてるんだよ。なんでそんなことわからないのか。」

この時の彼、一緒に手伝ってくれたのよ。帰りが遅くなるから一緒に帰れないってクラスメイトに伝えてほしいってお願いしたの。そしたら私の教室に来てくれてね。口ではつれないこと言うのに耳はまるで熟れた林檎みたいに真っ赤なの、可愛いわ。それに私を見てくる瞳は優しいし、穏やかな表情をするのよ。彼っていつも仏頂面だから氷の伯爵令息って言われてるのによ!面白いわね!


「別に普通だね、まあキミにしてはまあまあ似合ってるんじゃないか?まあまあだけどね。」

この時の彼はね、桃色のタイピンをつけていたわ。髪を止めるリボンも桃色なの!桃色は私の瞳の色と一緒なのよ!
耳を熟れた林檎みたいに真っ赤にして私をチラチラ見てくるの。貴方の色を身につけたのよって、私なりに頑張って説明したら彼、顔まで真っ赤にしちゃって!私の方が恥ずかしくなってしまったわ。
あとね、夜会ではずーっと仏頂面だったけど、絶対私の側を離れないの。うふふ、本当に可愛いのよ。