2014年 春 現在
Side 愛華


結婚とか婚約って、もっと幸せな気持ちでいっぱいになるものだと思っていた。


おじいちゃんから縁談の日を告げられてから今日を迎えるまでとても憂鬱で、なんとかこのことを考えないようにするためにいつも以上に勉強に集中する毎日だった。


顔合わせは(うち)ですることになっている。


どんな格好をすればいいか相模に聞いたら、私はまだ学生だし制服でいいと言われた。


とてもじゃないけれど、紺炉には聞く気になれなかった。


お昼過ぎ、間も無く相手の人が到着するはずだ。


客間に行くとおじいちゃんはもう座って待機していた。


相手の顔は写真で見させてもらっている。


歳は30手前くらいの、見た感じはあまり怖くなさそうな人だった。
 

——好きになれるといいな……。


そんなことを考えながら時が来るのを待っていると襖の外から「失礼します」と声がした。


相手の人が来た知らせは相模か犬飼がするはずなのに、声の主は紺炉だった。


おじいちゃんが返事をすると襖がほんの少し開かれ、スーツ姿にネクタイまで締めた紺炉が床に膝をついていた。


「……親父。もうすぐお相手が来られるのは重々承知してますが、どうしても今聞いていただきたい話があります」


はっきり言って、こんな真剣な顔の紺炉は初めて見たかもしれない。


一気に空気が張り詰めるのを感じた。

 
中に入ってくると、紺炉は私たちの前に正座した。


背筋をピンと伸ばして、覚悟を決めた顔だった。


——紺炉は組を抜けるのかもしれない。


直感でそう思った。


「親父……そしてお嬢。2人にお話があります」


イヤだ、嫌だ、絶対イヤ!


そんな話は聞きたくない!


だって紺炉が五十嵐組からいなくなってしまったら、もう本当に紺炉との繋がりがなくなってしまう。


どうせ聞こえてしまうだろうけど、私は紺炉の口の動きを見ないためにギュッと目を閉じて耳も塞いだ。