ちょうど組長が計画した温泉旅行に来たタイミングで俺は話を切り出した。


「組長、あの2人のこと気づいていらっしゃるのでしょう?」


あえて〝誰と誰〟とは言わなかった。


「愛華が要のことを好きでしょうがないことか?」 


「まあそうなのですが、私が言っているのは紺炉の方です……」


組長は俺が何を言おうとしているか分かっていると確信があったから、皆まで口にするのはやめた。


「あの2人は昔から仲が良かったからなぁ」


「・・・組長、少し紺炉に甘すぎではありませんか?」


人の心は誰にも操れない。例え自分自身だろうとも。


だから、お嬢のことを想う紺炉の気持ちを非難するつもりは全くない。


しかし現状2人は主人と世話係、そして子供と大人。


人間社会に生きている以上、越えてはならない一線がある。


そこの境界線を大人側が曖昧にする行為はすべきではないというのが俺の持論で、紺炉は今そのあたりのコントロールが完全に緩くなっている。


2人には幸せになってもらいたいからこそ、今はまだ我慢の時期だ。


「まぁ、ちゃんと手は打つ。だから心配しなくて大丈夫だ」


俺の肩にポンと手を置き、組長は自室の方へ歩いて行った。


手を打つとは一体どちらの意味なのだろうか。


2人を認めるのか、あるいは2人を・・・・。


これだけ傍にいるのに、組長の考えていることはまだまだ読めない。


この17年、お嬢だけでなく紺炉の成長も見守ってきた自分としては、どうか2人が望む未来になることを願うばかりだった——。