紺炉は自分が着ていたスーツのジャケットを脱いで私の肩にかけてきた。  


そしてどかっと席に座り、自分の隣を手でトントンとしてくる。


隣に座れということなんだと思う。


私は少しだけ間を空けて、ちょこんと腰掛けた。

 
「で。どういうことか説明してください」


「・・・お金が欲しくてヤリマシタ」


自分で言いながら、なんだか逮捕された犯人の自供みたいだなと思った。


「まさか今までもこうやってフロアに出てたなんてことはないですよね?」


「まさかッ!!お皿洗いとかフードの盛り付けとか、ずっと厨房に篭ってました!!今日はママが最後だし着てみる?って言ってくれて……」


紺炉のため息で私たちは一層重い空気に包まれた。


何か話題を変えなければと頭をフル回転させていると、今日一番のビッグイベントを思い出した。
 

「……あ、そうだ!目瞑ってちょっと待っててね!」


紺炉が渋々目を閉じる。


私は紺炉が目を閉じたのを確認してからスタッフルームへ駆け込んだ。


本当は家に帰ってからと思っていたけれど、せっかくプレゼントは持っているんだしこうなったら今渡してしまおう。


席に戻ると紺炉はちゃんと言うことを聞いて目を瞑ったまま座っていた。


「紺炉誕生日おめでとう!もう目開けていいよ!」


私はプレゼントが入った袋を差し出した。


鮮やかなグリーンにほんのりブルーが混ざったあの色の袋。


「あ、りがとうございます。え……これを俺にですか?」


紺炉は信じられないという顔をしながら袋の中からプレゼントを取り出し、ケースを開けた。


中でシルバーのピアスがキラリと光る。


「今年は自分でプレゼント買いたくて、それでおじいちゃんに頼んでここのバイト紹介してもらったの。内緒にしててごめんね」


もしかしたら思い出深い物かもしれないと思っていた黒いピアスを、紺炉はあっさり外した。


そして紺炉にあげたピアスを私に渡してくる。


「お嬢に付けてほしいです」


「え?私ピアスなんて付けたことないけど大丈夫かな……?」


とりあえず紺炉の耳たぶに手を添えた。


ピアスを持った手が震えそうになるのを抑えながら、慎重にピアスホールへ射し込む。


反対側はさっきよりも上手くいった。


紺炉の耳にきらりと光る銀色のピアスは思っていた通り、彼によく似合っていた。


「私も卒業したら、ピアス開けたいなぁ」


人のを見ていたらなんだか私も無性に付けたくなった。


私の高校はそういうのは禁止だから、開けるなら再来年。


卒業までの我慢だ。


「じゃあその時は俺がプレゼントしますね」


紺炉は私の左耳の耳たぶに手を伸ばし、まだ開いていない穴を確認するように触る。


確か耳にはツボがたくさんあると聞いたことがあった。


その心地よさに瞼が閉じていくのとほぼ同時に、紺炉がその手を私の後頭部に回す。


そっと触れるだけの優しいキスだった。


端の席とはいえ、別の席には組の人だっているのに、紺炉にしては珍しく大胆だ。


でもきっと一瞬だったし誰も見ていないはず。


「大事に使わせてもらいます」


実はママをはじめ、あの場にいたみんなから密かに見守られていたということは、後になってから知ったことだった。