Side 愛華


——今日はいつも以上にフロアが賑やかだな……?


私は外の様子に耳を傾けながら、厨房でフルーツの盛り付けをしていた。


クラッカーみたいな破裂音に大合唱。


誰かのお祝いなのだろうか?


「今日って何かあるんですか?かなり盛り上がってますね」


「あぁ〜お客さんが誕生日なんだよね・・・!」

 
私に指導してくれているボーイさんが教えてくれた。


今日が誕生日ということはそのお客さんは紺炉と同じだ。


朝からバタバタしていたせいもあって、おめでとうも言わずに家を出てしまった。


でもプレゼントはばっちり用意できている。


渡すのはバイトが終わって家に帰ってからのに、紺炉に見つかったら困るからわざわざお店に持ってきてしまった。


「ねぇ愛華ちゃん。今日そんなに忙しくないしせっかくだからドレス着てみない?」


ママが厨房にやって来た。


ドレスというと、店の人たちが着ているセクシーなものだろうけど、あんなの私なんかが着こなせるとは到底思えない。


でも私に拒否権はないようで、有無を言わさずスタッフルームに連れて行かれる。


ママはこれはどう?あれはどう?と私にドレスを合わせてきて、されるがままに簡単なヘアメイクまでしてもらった。


「はい、じゃあついてきてね!」


「え?ちょ、ちょっと美鈴ママ!?」


ズンズン進んでいくママの後ろで隠れるようにしてフロアを歩いていると、テーブルのお客さんからたくさん声をかけられた。


「ママ、その子新人さん?」
「指名できる?」


「ごめんねぇ、この子はもう先約あるのよ!」


ママはニコニコしながらそう答えた。


——指名ってことは席に着くってこと!?


そんな話全く聞いてない!


お酒の注ぎ方とか、火の付け方とか分からないし、そもそも私はお酒も飲めないし!

 
一体何から話を切り出せばいいのやら、内心焦りながら困っていると、後ろから誰かにぐっと手を引かれた。


バランスを崩して後ろに倒れ込んだ時、嗅ぎ慣れた香水の香りがして私は心臓が縮み上がったのを感じた。


これは紺炉と同じ香水だ……。


「……ママ、この子俺が連れて行っていいよな?」


「はいはいど〜ぞ〜!」
 
 
あぁ、怒っている……。


声のトーンでなんとなくわかる。


私のことをあっさり引き渡したママを恨んだ。


「こっち」と耳打ちされ、フロアの角の席まで連れて行かれた。