すると突然知らない人に話しかけられる。


「雨、降ってきちゃいましたね。僕も傘持ってなくて……」


少し間隔を空けて、私と同じように傘を持たずに雨宿りをしている人だった。


綺麗な鼻筋に整った顔立ち。


黒いスーツがとても似合う人だった。


仕事帰りの人かと思ったけれど、なぜか鞄は持っていない。


「誰かお迎え待ちですか?」


「へ?あ、はい!走って帰ってもいいんですけど、怒られそうなので……」


初対面の人と話すのはあまり得意ではないのに、不思議とすらすらと話せてしまう。


「ハハハッ。見かけによらずお転婆なお嬢さんなんですね」


子供っぽいガサツなやつだと自らアピールしてしまったことに気がつき恥ずかしくなった。


なかったことにしようと、慌てて話題を変える。


「……お、お兄さんはどうやって帰るんですか?」
 

見たところ私より年上なのは間違いないけど、年齢が全く読めない。


紺炉より年下だと言われても納得できるし、年上と言われても違和感ないほど落ち着いた大人の男性だ。


だからお兄さんと呼ぶのが適切かはわからなかった。


「残念ながら僕には迎えにきてくれる人もいないので、もう少し様子を見ようかと」
 

彼はニッコリと笑って曇天の空を見上げた。


まだ雨は相変わらずしとしと降っている。


初対面の人だけど、なんだか放っておけない感じがして、このまま彼を置いて自分だけ帰るのは気が引けた。


「紺…じゃなくて、家族が傘持って来たら1本お貸しできます!私は一緒に入ればいいので!」


何に驚いたのか、彼は目をまん丸にした。


そして私の方に近づいてきて手を取りながら、


「ありがとう優しいお嬢さん。その気持ちだけいただきます」


そっと手の甲に口付けられた。


こんなこと、きっと映画やドラマでもなかなか起こらない。


まるでどこかのプリンセスにでもなった気分だった。


王子様みたいだと少しドキドキしていると後ろから伸びてきた手が彼の手をパーンと弾いた。