Side 愛華


最近の私は休みさえあれば伊藤くんと図書館で勉強をしていた。


勉強をしていれば、ずっと心の中で引っかかっているあの〝遠藤さん〟のことだって考えずにいられるし、伊藤くんといれば、報われる気配のない紺炉との関係からも目を背けられる。


紺炉は私が伊藤くんと付き合っていると思ったようだけど、だからと言って特に変わった様子はなかった。


なんなら勝手に避妊の心配をされる始末。


先走るにもほどがあるし、余計なお世話だ。


私はあの女の人と紺炉のことでこんなにヤキモキさせられているのに。


私たちが例の彼女と偶然会ったあの日、帰ってくるなり紺炉は何か説明しようとしたけれど、私はそれを断った。


本当は彼女と紺炉がどういう関係なのか気になって仕方がないのに、私は強がった。


私の反応が予想外だったのか、紺炉は紺炉で戸惑っていた。


風の噂だと、今日紺炉は例の彼女と会っているらしい。


花火大会に合わせて庭で一緒に花火をしないかと紺炉を誘おうと思っていたけれど、もしかしたらその花火大会に2人で行くのかもしれない。


声をかけなくて正解だった。


ちょうど遠くの方で花火の音が聞こえ始めたタイミングで私も手持ち花火を始めた。


これは犬飼が買ってきてくれたものだ。犬飼のほか、私が声をかけた何人かも庭に集まって各々好きな花火を選んでいる。
 

私が少し離れた所にしゃがんで線香花火を楽しんでいると、隣に誰かがしゃがんだ気配がした。


カチッというライターの音と共に、私と同じ線香花火がパチパチと燃え始める。


顔を見ずとも、ふんわり香る香水の匂いとか、花火を持つ手でそれが紺炉なのはすぐ分かる。


もしかしたら今晩は帰ってこないのかもしれないと思っていたから、正直ホッとした。


でも今回の件に関しては最初に気にしていない素振りをしてしまった手前、今さら何て声をかければいいのか分からない。


私は特に何も言わずに花火に集中していて、沈黙を破ったのは紺炉の方だった。


「・・・今日遠藤と会ってたんですけど、俺告白されました」


せっかく火花が弾ける可愛い音を楽しんでいたのに、あろうことか聞きたくもない報告をしてきたKY(ケーワイ)な紺炉に私は呆れ返る。


「え……もしかして、自慢話?でも良かったね、晴れて恋人同士なわけだ」


彼女ができたからもう自分のことは諦めてくれと言いたいのだろうか。


言われなくても、人の彼氏にちょっかいをかけるようなことはしない。


「まぁ断ったんですけどね」


その言葉に私は内心喜んでしまった。


それが紺炉にバレないように、なんとか平静を装いながら言葉を返す。


「えぇっ?何でよ。断る理由なんてなくない?」


「好きな人がいる、大事にしたい人がいるって言いました」


「・・・ふーーん。そっか」

 
紺炉の言う好きな人、大事にしたい人が誰なのかは実際のところは分からない。


前ホテルにいたセクシーなあの人なのかもしれないし、私の知らない人かもしれない。


でも紺炉が私の方を真っ直ぐに見て言ってくるもんだから、どうしたって期待してしまう。


私の心臓は紺炉に聴こえてしまうんじゃないかと思うくらいドキドキしていた。  


必死に隠していたけど、嬉しくて緩んでしまった顔は多分紺炉に見られていたと思う——。