Side 紺炉


「なんかごめんね。彼女大丈夫だった?」


くるりと背中を向けて歩き去ったお嬢を遠藤が心配そうに見る。


「まぁ大丈夫だろ。とりあえず立ち話もあれだし駅前のカフェでも行くか」





俺と彼女は当時住んでいた家が比較的近かった関係で小学校と中学校が同じだった。


中学に入り俺が分かりやすくグレて柄の悪い奴と連むようになるまでは、よく一緒に遊んでいた。


「それにしてもビックリしたよ!勇気出して声かけてよかった〜!」


「俺も驚いた。いつぶりだろ、中学の卒業式とか?」


「話したのはそれが最後かも。でもね私は高校1年の時、お祭りで紺炉くんのこと実は見かけてるんだ〜」


自分なんかが話しかけたら、俺が一緒にいた仲間からからかわれたりして俺に迷惑がかかるんじゃないかと気にして声はかけなかったらしい。


昔から俺みたいなやつにも真摯に向き合ってくれていた。


多分そういうところに惹かれていたんだと思う。


まあ結局そんな想いを伝えることはなく、俺は親父に拾われてかれこれ17年が経った。


いつのまにか、俺の心の真ん中にはお嬢しかいなくなっていた。


誰と付き合っても、誰を抱いても、気づいたらあの子のことを考えている。


始めは世話係だからこんなに気になっていると思っていた。


でもそうでないと気づいた時、急に自分が怖くなった。


越えてはいけない一線を越えて、何もかも壊してしまうかもしれないと。


だから俺は壁を作ったのに。


お嬢はそれを簡単に乗り越えてくるし、時にぶち破ってくるから笑ってしまう。


拒否するほどお嬢もムキになると分かったから、最近ではもう逆に俺から近づくように作戦を変えた。


強靭な精神力によって、俺の理性はなんとか保たれているのだ。


「紺炉くん?大丈夫?」


急に黙り込んだ俺の顔を遠藤が覗き込む。


「悪い、ちょっと昔のこと思い出してた」


かつて好きだった人を前にしてもこのザマだ。お嬢のことばかり考えている。


時刻はまもなく22時。


ちょっと話して帰るつもりが、思った以上に思い出話に花が咲き、がっつり飯まで食ってしまった。


そろそろお開きにした方が良さそうだ。


「今更だけどさ、紺炉くん結婚とかしてない・・・よね?」


「してないしてない。バリバリの独身だよ。遠藤は?」


「私もしてない笑 せっかく再会できたし、また話せたらな〜と思ったから、一応聞いてみた!」


確かに、もし相手が結婚していたら例えお互いに何もなくても2人で会うのはグレーゾーンかもしれない。


俺はメッセージアプリのコードを表示してそれを遠藤に登録してもらった。


「じゃあまた!帰り道心配だから家着いたら一応連絡くれる?」

 
お嬢に対する過保護がすっかり抜けなくなっている。


彼氏でもないのに図々しいかと思ったが、遠藤はどちらかというと嬉しそうだった。