2013年 春
Side 紺炉


「ねぇ紺炉!今度の休み一緒にディズミーパーク行かない?チケット貰ったの!」


ある晩、お嬢が2枚のチケットを見せてきた。


ディズミーパークとは東京の端にある、子供から大人まで楽しめるのがウリの大人気大型テーマパークだ。


昔一度だけ親父や相模さんと一緒に、まだ小さかったお嬢を連れて行ったことがあった。


残念ながらお嬢はほとんど覚えてないだろうけど。


基本的に人混みが苦手な俺は、もちろんそれ以来ディズミーパークなんて行っていないし、この歳にもなればそもそもあまり行きたいとも思わない。


「せっかくなんですから、お友達誘えばいいじゃないですか」


「その〝お友達〟みんな予定あるって断られたからこうして紺炉を誘ってるんじゃん!」


なんだその仕方ないから誘ってやった感は……。


昔は何をするにも「紺炉と一緒がいい」と言って聞かなかったくせに。


いつの間にか俺は最後の妥協策になってしまったらしい。


我ながらちっさい男だとは思ったが、この日はなぜか虫の居所が悪く、いつもなら気にならないこんな小さなことにもつっかかってしまった。


「一緒に行ってほしいならもう少し誘い方は考えた方がいいと思いますよ?」


少し突き放すような言い方になってしまったが、この程度で怯むお嬢ではなかった。


「紺炉こそ、何でそんな偉そうなわけ?機嫌悪いからって当たらないでよ!大人でしょ!?」


「そうです俺は〝大人〟なので、そういう所は子供同士で行ってください」


ああ言えばこう言うとはまさにこのことで、その場にいた組員は各々苦笑いを浮かべたり、逆に楽しそうに見守ったりと反応は様々だ。


「あっそう!誘った私が悪かった!よく考えたら犬飼と一緒に行く方が絶対楽しそうだわ!もう紺炉なんて2度と誘わないから!」


「楽しんできてくださいよ。俺はゆっくり羽を伸ばさせてもらいますんで」


俺がしっしっと手で追い払うと、さらに2、3個お嬢の顔に怒りマークが増えていた気がする。