Side 愛華


突然紺炉に重ねられた唇は、アルコールとタバコが混ざった大人の味がした。


実は紺炉とキスするのはこれが初めてというわけじゃない。


でもあのホテルの時は、紺炉も言っていたように〝不可抗力〟だった。


ちなみに、いきなり人の唇を奪った肝心の紺炉は、満足気な顔をして眠ってしまった。

 
さすがに私一人で紺炉をベッドに寝かせるのは無理だから、風邪をひかないようにそっと毛布をかけてあげ、部屋の電気を消した。


自分の部屋に戻った私は、扉に背を預けずるずると座り込む。


そっと目を閉じれば、思い出すのはさっきの紺炉の話。


あれはもう、誰が聞いても告白だった。


紺炉が言っていたように、「相応しくないとかそんなのはくだらない」と何度も言いそうになったのは事実だ。


別にそれが私を好きとかそういうことでなくとも、紺炉が何かを気にして遠慮するということ自体に我慢ならないのだ。


でも、紺炉には紺炉のけじめというか信念みたいなものがあるんだと知ることができた。


そして何よりも、紺炉の本音が聞けたことがかなり嬉しかった。


私はここ最近特に、両想いになることにこだわっていたけれど、好きな人のそばにいることができる。


そしてその好きな人も自分のことを大切に想ってくれている。


それだけで十分じゃないかと、これまでの自分を反省した。


私だって紺炉を困らせたいわけじゃない。


ただこれからも、たまにドキドキしながらこの日々が続くならそれが一番だ。


「紺炉はほんとにずるいよ……。最低男ッ!」


体育座りをして膝に顔を埋めながら呟くと、くぐもった声が自分の中に響いた。


最後に文句の一つくらい言ったって、神様は許してくれるよね?