帰り着いた時間は意外とそんなに遅くはなかったが、少し休んでから風呂に入って、部屋に戻る頃には0時を回ろうとしていた。


視界ははっきりしているが、頭は回らず足元も若干おぼつかないのが自分でもわかる。


廊下をフラフラしながら歩いていると、向こうからお嬢が歩いてきた。


「ちょっと紺炉!大丈夫?フラフラだよ!?」


そう言って俺に駆け寄ってきたお嬢は、「お酒臭ッ!」と言いながら、俺の手を引いて部屋まで連れて行ってくれた。


「紺炉がそんな酔うなんて珍しいね。何かあったの?」


ひとまずベッドにもたれるように床に座りこんだ俺の隣にお嬢も腰を下ろす。


「何か悩みがあるなら聞くよ?なんでも任せなさいッ!」


自信満々な様子だが、まさか自分のことで悩まれているなんて夢にも思ってないんだろう。


「・・・恋愛の悩み、ですかね」


「れっ、恋愛ィ!?」


そんなに意外だったのだろうか。


目をパチクリさせながら、お嬢は完全に言葉を失っている。


アルコールのせいで気分が高揚して、思考も鈍っていたのだろう。


俺は隣にお嬢がいることなんてすっかり忘れ、思いの丈を口にしていた。


『俺、心の底から大事な人がいて、その人のためならなんだってできるんですよ。
でも、その人は俺なんかが惚れちゃいけない相手で。
ただ最近、彼女もこう、なんていうか。もしかしたら俺のこと……?とか思うことがあって。
期待しちゃう自分もいるんですよ。
もしそうなら、正直めちゃくちゃ嬉しくて。
今すぐ抱きしめてキスしたいし、俺のだって叫びたいし、めちゃくちゃ可愛がって甘やかしたい。
彼女はうじうじ悩む俺と違って、相応しくないとかそんなのはくだらないって言いそうなんですけどね。
そういうコなんですよ。
昔から知ってるんですけど、お転婆で、芯が通ってて、ちょっとませてて(笑)
しっかりしてるんですけど、でもやっぱりどこか危なっかしいところがあるから目が離せなくて。
どうです?可愛いでしょ?俺の大事な人。
けど想いを伝えるつもりは絶対にないんです。
だから、これは俺とお嬢のヒミツですからね』


俺はお嬢に指切りげんまんの小指を差し出した。


しかし、今考えると意味不明な状況だった。


自分としては、心の中で言っていたつもりが、お嬢が隣にいることを忘れ、それを声に出してしまって。


最終的には、こうして改めて隣のお嬢に話しかけている始末なのだから。


お嬢は真面目な顔で何やら考え込んでいる。


何か言おうとしてくれているのだろう。


いい、お嬢はは何も言わなくていいんです。


俺はお嬢の口が開かれる前に、自分の唇をそっと重ねていた。