2012年 秋
Side 愛華


ヤバイ人たちに攫われてから、紺炉はまた私の世話係に戻ってくれた。


前よりよそよそしい感じはなくなったけれど、依然私は一定の距離を置かれている。


ここまできたら、アタックし続けるしかないのかもしれない。


女性経験なんて星の数ほどありそうな紺炉を相手に、かたや男の子と付き合ったこともない私なんかが難しい恋の駆け引きなんてできるわけないのだ。


紺炉は、意外とストレートな告白に弱いのではないかと分析している。


こうして、私の紺炉へのアタックの日々が始まった。


まずは、犬飼に頼んで料理を教えてもらった。


男は胃袋を掴めばイチコロだと、何かの本に書いてあったから。


休日のお昼にオムライスを作った時は、紺炉のオムライスにだけケチャップでハートマークを描いた。


私の方をチラッと見た紺炉は、何事もないようにケチャップを卵全体に伸ばしてパクパクと口に運んだ。


他のみんなは美味しいって言いながら食べてくれてるのに……。


でもこんなことではへこたれない!


宿題で分からないところがあると言って、居間のテーブルで紺炉に勉強を教えてもらったこともある。


もちろん、そんなのは口実。


本当は、最近流行っているリップグロスとヘアミストを付けて、紺炉の五感を刺激する計画だ。


リップグロスは、〝キスしたくなる唇〟が売りのもので、ほんの少し唇に乗せただけで、プルプルな仕上がりになる。


鏡の前で、自分でも思わず触れたくなったほどだ。


ヘアミストは、華やかなフローラルベースの中にほんのり香るフルーティーさが人気で、男性ウケもいいらしい。


手首にシュッと吹きかけたあと、首元に塗り込んだ。


準備万端なはずだったのに、隣に座る紺炉の方へ体を寄せても、私の唇や香りに気づく素振りは全くない。


それどころか、「勉強なら俺より相模さんの方が適任でしょ」なんて言いながら、至って真面目に勉強を教えてくれた。


私はと言うと、ペンの持ち方が綺麗だなとか、結構まつ毛長いんだなとか、説明する時に動く喉仏がセクシーだなとか、紺炉に夢中で肝心の内容なんて全然頭に入ってこない。


本当は紺炉を誘惑する作戦だったのに、結局私がドキドキさせられて終わった。


最終手段は、かなり大胆にいった。