2012年 


親父に直談判して、お嬢と距離を置かせてもらってから数週間経った頃。


お嬢から連絡が入った。


誕生日プレゼントを渡したいと。


いや、可愛すぎるだろ。


プレゼントがなんなのか想像もつかないが、俺のことを考えて用意してくれたってだけで堪らなくなる。


しかし今ここでお嬢に会ってしまえば、これまでの努力が全て水の泡になってしまう。


そう思った俺は、最低な案を決行した。


お嬢にはホテルの部屋に来て欲しいことを伝え、俺は急ぎある女性(ヒト)に連絡した。

 
組にはわりと、懇意にする店というのがあって、俺が連絡したのは五十嵐組が用心棒をしている店のママだ。


と言っても、年は俺と同い年。


念のため言っておくが、彼女と寝たことなどただの一度もない。


仮に誘ったとしても、俺なんかタイプじゃないと断ってくるような気の強い人だ。


準備は整った。


あとはもうお嬢が来るのを待つだけ。


カードキーでドアが開錠された音を聞いて、俺はベッドが軋むよう動き始める。


彼女はお願いした通りの演技をしてくれた。


誰が見てもそれは〝行為中〟として目に映るだろう。

 
俺は背中を向けていたから、入ってきた時のお嬢の顔は見ていない。


ただ、後ろに気配は感じるのにお嬢は何も言ってこない。


さて、どうしたものかと考えていると、ドサッという音がして、俺は振り返った。


ほんの一瞬目が合ったお嬢は、目にいっぱいの涙を浮かべ、茫然と立ち尽くしている。


ただそれも刹那で、次の瞬間には部屋を飛び出して行った。


わざわざ芝居までして、大事な女の子を故意に傷つけて、泣かせて。


本当に俺は何をやっているのだろうと自嘲する。


残ったのは虚しさだけだった。



「……アンタ、私の渾身の喘ぎ声聞いたんだから、今度店の女の子にシャンパン入れてよ?」


「……うん。ほんと感謝してる」


俺がやったことについて、あえて何も言ってこないし聞いてこないのは彼女の優しさだろうし、それがせめてもの救いだった。