2012年
「親父、しばらくお嬢の世話係を休ませてはもらえないでしょうか」
紺炉が突然おじいちゃんにこう直談判した。
このままではけじめがつかないからと、ただそれだけ言って頭を下げたらしい。
2人が実際にどんな会話をしたのか私は分からないけれど、紺炉の希望通りに事が運んだのだから、きっとおじいちゃんは了承したんだ。
「私、聞いてないんだけど」
私は部屋から出てきた紺炉を廊下で待ち伏せした。
「すみません。しばらく頭を冷やす時間をいただければと」
紺炉は身体を綺麗に二つに折って謝ってきた。
別に私は謝罪の言葉が欲しかったわけじゃない。
「私、紺炉に何かしちゃった?嫌なことあるなら言ってよ!私の世話係なんだから、何でもまずは私に言うのが筋ってもんじゃないの!?」
肩で息をしながら紺炉を追及した。
ヒートアップしてしまった私とは対照的に、紺炉はあくまで冷静に返してくる。
「元々俺は、親父に言われてお嬢の世話係をやってただけなんで」
嫌な言い方をするなと思った。
まるでやらされてたとでも言いたげだ。
まぁ実際、そうなのかもしれないけれど……。
私は物心ついた頃から今まで、紺炉と一緒に過ごせて楽しかったのに。
紺炉は違ったんだ……。
始めこそ、私抜きで勝手に話が進んだことに怒っていたのに、それは次第に悲しみに変わっていった。
結局、紺炉はしばらく私の世話係を休むだけでなく、わざわざホテルに部屋まで借りて家を出て行った。
一時的なものらしいけど。
本当に、とことん私から離れたいんだなと、逆に吹っ切れてしまった。
とは言え、紺炉が傍にいないということは、思ったより私に精神的ダメージを与えたようで。
食欲もなくなり、夜もあまり眠れない。
食べる量が減ったから、体重は確か3kgくらい落ちたと思う。
そして、紺炉がいないその穴を埋めてくれたのが、この犬飼だ。
当時、組に入ってまだそんなに日は経っていなかったが、一番私と歳が近いからと、臨時の世話係に任命されたらしい。
犬飼は、屍のような私を何とか楽しませようとアレコレ考えてくれた。
学校帰りに寄り道してゲームセンターへ行ってプリクラを撮ったり。
少し遠出して海に行き、服のまま遊んだ後びちょびちょに濡れた状態で帰って相模というおじいちゃんの側近に2人で怒られたこともあった。
一番やったのは料理。
彼は下に弟や妹がいるらしく、驚くほど家事が得意なのだ。
いま私が作れる料理は全て犬飼に教えてもらった。
徐々に紺炉のいない生活を受け入れられるようになった頃、彼がある提案をしてくれた。
「もうすぐ要さんの誕生日ですよね。お嬢、手作りケーキとか作るのどうですか?」
私は慌ててカレンダーを確認した。
確かに、紺炉の誕生日はもう目前。
誕生日にかこつければ、紺炉と話すいいきっかけになるし、もちろんお祝いだってできる。
私は犬飼の指導の元、甘いのがそんなに得意じゃない紺炉でも食べれるように、甘さ控えめでお一人様サイズのケーキを作った。
無視されるかもしれないと不安になりながら、おめでとうのメッセージと、プレゼントを渡したいから家に来る時間を知りたいことを伝えた。
確かわりと返信はすぐ来た気がする。
『今日は家行かないんで、もし良かったらホテル来てもらってもいいですか?』
よくよく考えてみれば、この時既におかしかった。
いつもの紺炉なら用事があろうと無かろうと飛んで来ただろうに。
私を動かすなら自分が動く、そういう男なのに。
けれど、あの時の私は久しぶりに紺炉とゆっくり話せるという喜びで頭がいっぱいになっていて、そんなことまで考えてはいなかった。
「親父、しばらくお嬢の世話係を休ませてはもらえないでしょうか」
紺炉が突然おじいちゃんにこう直談判した。
このままではけじめがつかないからと、ただそれだけ言って頭を下げたらしい。
2人が実際にどんな会話をしたのか私は分からないけれど、紺炉の希望通りに事が運んだのだから、きっとおじいちゃんは了承したんだ。
「私、聞いてないんだけど」
私は部屋から出てきた紺炉を廊下で待ち伏せした。
「すみません。しばらく頭を冷やす時間をいただければと」
紺炉は身体を綺麗に二つに折って謝ってきた。
別に私は謝罪の言葉が欲しかったわけじゃない。
「私、紺炉に何かしちゃった?嫌なことあるなら言ってよ!私の世話係なんだから、何でもまずは私に言うのが筋ってもんじゃないの!?」
肩で息をしながら紺炉を追及した。
ヒートアップしてしまった私とは対照的に、紺炉はあくまで冷静に返してくる。
「元々俺は、親父に言われてお嬢の世話係をやってただけなんで」
嫌な言い方をするなと思った。
まるでやらされてたとでも言いたげだ。
まぁ実際、そうなのかもしれないけれど……。
私は物心ついた頃から今まで、紺炉と一緒に過ごせて楽しかったのに。
紺炉は違ったんだ……。
始めこそ、私抜きで勝手に話が進んだことに怒っていたのに、それは次第に悲しみに変わっていった。
結局、紺炉はしばらく私の世話係を休むだけでなく、わざわざホテルに部屋まで借りて家を出て行った。
一時的なものらしいけど。
本当に、とことん私から離れたいんだなと、逆に吹っ切れてしまった。
とは言え、紺炉が傍にいないということは、思ったより私に精神的ダメージを与えたようで。
食欲もなくなり、夜もあまり眠れない。
食べる量が減ったから、体重は確か3kgくらい落ちたと思う。
そして、紺炉がいないその穴を埋めてくれたのが、この犬飼だ。
当時、組に入ってまだそんなに日は経っていなかったが、一番私と歳が近いからと、臨時の世話係に任命されたらしい。
犬飼は、屍のような私を何とか楽しませようとアレコレ考えてくれた。
学校帰りに寄り道してゲームセンターへ行ってプリクラを撮ったり。
少し遠出して海に行き、服のまま遊んだ後びちょびちょに濡れた状態で帰って相模というおじいちゃんの側近に2人で怒られたこともあった。
一番やったのは料理。
彼は下に弟や妹がいるらしく、驚くほど家事が得意なのだ。
いま私が作れる料理は全て犬飼に教えてもらった。
徐々に紺炉のいない生活を受け入れられるようになった頃、彼がある提案をしてくれた。
「もうすぐ要さんの誕生日ですよね。お嬢、手作りケーキとか作るのどうですか?」
私は慌ててカレンダーを確認した。
確かに、紺炉の誕生日はもう目前。
誕生日にかこつければ、紺炉と話すいいきっかけになるし、もちろんお祝いだってできる。
私は犬飼の指導の元、甘いのがそんなに得意じゃない紺炉でも食べれるように、甘さ控えめでお一人様サイズのケーキを作った。
無視されるかもしれないと不安になりながら、おめでとうのメッセージと、プレゼントを渡したいから家に来る時間を知りたいことを伝えた。
確かわりと返信はすぐ来た気がする。
『今日は家行かないんで、もし良かったらホテル来てもらってもいいですか?』
よくよく考えてみれば、この時既におかしかった。
いつもの紺炉なら用事があろうと無かろうと飛んで来ただろうに。
私を動かすなら自分が動く、そういう男なのに。
けれど、あの時の私は久しぶりに紺炉とゆっくり話せるという喜びで頭がいっぱいになっていて、そんなことまで考えてはいなかった。