第5話

○回想 コンビニ前

 蒼佑が、子猫を愛しそうに抱き上げて、顔をのぞき込み、それから撫でる。

七瀬(あの子猫のように見つめてほしい、と思ってた)
七瀬(あの手に大切に触れられて、あの目に愛しそうに見つめられたら、他にはなにもいらない、なんて思ってた)
七瀬(まさか、その願いが叶う日が来るなんて)

(回想終了)

○駅の改札を出たところ(午前10時)

蒼佑「七瀬、おはよ」
七瀬「おはよ」

 蒼佑の手が、七瀬の手に伸び、二人は手をつないで歩き出す。

〇文房具売り場 
 新学期に向けての買い物をする2人。
 七瀬、ぬいぐるみペンケースを手にとる。

七瀬「これ、可愛い」
蒼佑「これ買うの? 邪魔じゃない?」
七瀬「え、そっかー。やめとこうかな」
蒼佑「ごめんごめん、気に入ったの使うのが一番だよな。七瀬の好きなのにしなよ」

 蒼佑、七瀬の頭をポンと撫でて、そのままほっぺたを指で愛しそうに撫でる。

 七瀬、顔を赤らめて、蒼佑を見上げる。蒼佑、楽しそうに筆箱を選んでいる。


○学校の教室(新学期の朝)

 七瀬、有加、かえでが、教室の端っこで話している。

七瀬「いやもう、ほんと意外だったんだけどさぁー。もう甘いの。あま〜いの。スキンシップも多めでー。この前なんか……きゃっ」

 七瀬、何かを思いだして顔を赤らめてジタバタとする。

かえで「はいはい、良かったねぇ」
七瀬「ちょっと! だから、もうちょっと興味を持って、ってば」
有加「興味津々だよー。けど、ずーっとラインや電話で聞いてるし」

 有加の顔が曇る。

かえで「七瀬が幸せなら、私たちも本当にうれしいよ。でも、この七瀬の恋は、進めば進むほど心配なんだ。分かるでしょ

七瀬、うつむく。

○駅前(塾の帰り。夜)

 七瀬と蒼佑が楽しそうに会話しながら歩いている
 駅前の服屋のマネキンが着ているワンピースを蒼佑が指さす

蒼佑「あ、可愛い。あれ、七瀬めっちゃ似合いそう」
七瀬「ほんと、可愛い~♡」

七瀬、本当はそのワンピースを可愛いとは全く思えず、胸がチクっと痛む。
有加とかえでの心配そうな顔が頭にちらつく)

七瀬(私、本当に幸せ。蒼佑と両思いになれて。)

蒼佑、七瀬のことを大事に大事に扱い、愛しそうな表情。

七瀬(でも、蒼佑が想っているのは、ウソの私だ。本当の私じゃない。)

七瀬(私、いつまでウソをつき続けるんだろう。いつまで、蒼佑のことだまし続けるんだろう)

七瀬(この人に、もうウソなんてつきたくない。けど、ウソをつくのをやめたら、この幸せは消えてしまう)

七瀬(どうしたらいいの)

 向かいからやってきた男の子に声をかけられて、蒼佑が立ち止まる。

光「あれ、蒼佑? あ、そっか。そこの塾か」
蒼佑「ああ、光。なにしてんの?」
光「オレ、向こうのコンビニでバイトしてるから……で、もしかして彼女?」
蒼佑「うん。七瀬、こいつは、高1のときのクラスメイト」
七瀬「そうなんだ。初めまして〜」
光「え、七瀬ってもしかして……戸田七瀬?」

 七瀬、目を見開く。

光「オレ、中学のとき一緒だった、渡辺光。覚えてない?」
七瀬「あっ。え、うそ、背伸びたね……」

 七瀬、さえない中学生だった光の身長が伸び、あか抜けていることにびっくりする。そして、共通の知り合いとバッタリ出会ってしまったことに焦る。

光「そっちこそ、ぜんぜん雰囲気が……あー、なるほど。そういうことね」

 七瀬と蒼佑を見比べ、ニヤリと笑う光。

光「中学のやつらとまだ会ってる? 今度メシ行こうぜ。また連絡して」
七瀬「う、うん」
光「じゃ」
蒼佑「おー、また明日」

 光と別れて歩き出す七瀬と蒼佑。七瀬のスマホが鳴る。
 ラインのメッセージが届く。

光『週末ヒマ? ちょっと付き合ってほしいとこあるんだけど。秘密、バラされたくなかったら、ぜったい来いよ』

 びっくりして、顔をあげ、光が歩いていったほうを振り返る七瀬。
 既に光の姿はなく、七瀬は不安げな表情で立ち尽くす。