第4話

七瀬「えっ、だれ?」

男A「いや、急に声かけてごめんね。こいつが、めちゃくちゃ可愛い女の子がいる、とかいってさ〜」
男B「なんだよ、お前だっていってたじゃん」
男A「君、高校生? よかったら、これからメシ行かない?

七瀬(うわ、これってナンパ!? 初めてされた)

七瀬「あ、私、彼氏いるんで、間に合ってます」

 男AB、服装や容姿からふわっとした女の子だと思って話しかけたのに、七瀬のきっぱりとした拒絶に驚く。が、あきらめない。

男A「あ、じゃあさ、連絡先だけでも交換しない? 彼氏も高校生? 俺たちそこの大学の学生で、よかったら友達とかもいっしょに遊ぼうよ」

七瀬「いや、だから彼氏いるんで、無理です」

 
男A「キミさぁ。いくら可愛くたって、そんな愛想ないんじゃ、社会に出てやっていけないよ。」
男B「そうそう、俺ら、一応キミより年上なんだけど。もうちょっと敬意ってもんがあってもいいと思うけど」

七瀬(大学生でしょ、なにが「社会」だよ、そっちだってまだ学生じゃん!)

男A「ね、お兄さんが楽しいこといろいろ教えてあげるから、連絡先だけでも」

 男Aの手が七瀬のスマホに伸び、七瀬が振り払う。

男A「うーわっ、痛いんだけど。傷害罪じゃね? 謝れよ。」

 男2人がすごんできて、七瀬は少し怖くなる。
 プール出口付近には他にも人がいるが、男の背中に隠れて七瀬のピンチに気づいてくれる人はいない。

男B「ふっ。やっとおとなしくなった。だいたい、こんな服着てたら、誘ってると思われても仕方ないだろうよ」

 男B、七瀬の服のリボンを軽くひっぱる。
 七瀬はぞっとする。

七瀬(は? 違うし。なに言ってんの、こいつ。私が、この服を着てるのは・・・・・・)

蒼佑「七瀬!!!!!」

蒼佑「どうした? こいつら、なに?」

 
 七瀬の青ざめた顔を見て、蒼佑が男達をにらみつける。
 蒼佑と並ぶと、男2人はか細くてひ弱な身体をしていて、男2人は蒼佑の怒りの迫力に完全にビビっている。
 そして、通行人が何事かと好奇の目を向けてくる。

男A「なにって別に、ちょっと話してただけだよ。な?」
男B「そうそう、それだけ。じゃ。」

 男2人、そそくさと退散。


蒼佑「おい、待てよ!」
七瀬「たいじょうぶ、何でもないよ。ただのナンパ?」

 七瀬が笑顔を見せて、蒼佑は「はーっ」と頭を抱えてしゃがみ込む。 

蒼佑「ほんっと、ごめん! オレ、アホだわ。こんなところで、七瀬のこと1人にするべきじゃなかった。ほんとにほんとに、ごめん!!」


七瀬「もう、大丈夫だって。そんなことより、忘れ物、あった?」
蒼佑「あ〜」

 蒼佑、七瀬に小さな白い袋を渡す。中にはフランクフルトが2本入っている。

蒼佑「これ、やっぱり食べたかったんじゃないかと思って。出口のとこでも売ってたから、買ってきた」

 蒼佑の言葉を聞いた七瀬の目から、大粒の涙があふれる。

蒼佑「ご、ごめん、ほんと、それどころじゃなかったのに」

 七瀬、大きく首を横に振る。

七瀬「違うの、うれしくて」
蒼佑「え、フランクフルトが? 泣くほど好きなの?」

 七瀬、蒼佑の言葉には応えずにフランクフルトを頬張る。

七瀬(うれしい。蒼佑の気持ちが。優しさが。好きって気持ちがどんどん大きくなる。ちょっと、怖いくらいに)

 フランクフルトを食べ終えた2人は手をつないで駅まで歩き、ホームのベンチに座る。座っても、手はつないだまま。

蒼佑「もう二度と、七瀬のこと不安にさせない。ぜったいに大切にするから、オレの、本当の彼女になってください」

 目を見開く七瀬。そんな七瀬を真剣な表情で見つめる蒼佑。

七瀬「はい。よろしくお願いします」

 見つめ合い、微笑む2人。

七瀬「あ、今の電車!」

 見つめ合っているうちに、乗る予定だった電車が行ってしまい、2人は大爆笑する。