第3話

○プールの更衣室を出たところ。着替えを終えた蒼佑が、七瀬を待っている。

 七瀬が更衣室を出て蒼佑のところに行きかけた瞬間、横にいた女子グループが、蒼佑に気づいて色めき立つ。

プールの客A「うわ、イケメン発見!! 夏だわ〜」
プールの客B「ほんと、可愛い! 声かけちゃう?」
プールの客C「やめとけ、あそこで待ってるってことは、どう考えても彼女待ってるんじゃん。」
プールの客AとB「たしかに」
プールの客A「あんなきれいな顔の男の子の彼女って、どんなんだろー。興味あるわ〜。意外に意外ってパターンあるよね」
プールの客B「え、彼女来るまでここで見張る?」
プールの客C「暇かよ。」

 きゃははとにぎやかに去っていくプール客と、その会話を聞いてちょっと気まずい表情の七瀬。

七瀬(このあと、あの人たちに会いませんように)

蒼佑「七瀬!」
七瀬「あ、ごめん、遅くなっちゃった」

 蒼佑に駆け寄る七瀬。七瀬の水着姿(ラッシュガードを羽織っているが、リボン付きのフリフリビキニタイプ)に目を奪われる蒼佑。

蒼佑(うわ、あざとい。可愛い。)
七瀬(やった、これ絶対好きだと思った。)

蒼佑「さ、どこから回る?」
七瀬「えーっとねー、あ、あそこ!流れるプール行きたい!」

 七瀬と蒼佑、大きな浮き輪を借りて、流れるプールへ。七瀬がのった浮き輪を蒼佑がひっぱったり、バケツの水をばしゃっとかぶったり、蒼佑が流されそうになって2人で大笑いしたりする。

 スライダーに移動した2人。

蒼佑・七瀬「せ〜のっ」
七瀬「きゃーっ!」

 スライダーを滑り、プールに勢いよく落ちる2人。

蒼佑「大丈夫?」

 蒼佑が手をひいてくれて、初めて手がふれあい、どきっとする七瀬。

 お腹が空いてきた2人は、屋台のエリアに行く。

七瀬「おいしそぉ〜」

 大好物のフランクフルトを見て思わずつぶやく七瀬。

蒼佑「あれにする?」
七瀬「あ、ううん、わたし、クレープにしようかな」

 実際は甘いものよりしょっぱい系好きの七瀬だが、「かわいい女子」を演出するため、クレープを注文。
 可愛く食べる。

 クレープを食べ終わり、仲良く並んで歩いていると、「痛っ」と七瀬が顔をしかめる。

蒼佑「大丈夫?……あ」

七瀬の右のかかとに絆創膏が貼ってあり、血が滲んでいる。

蒼佑「そのケガ……」

七瀬「ううん、ケガってほどじゃなくてね。新しいサンダル履いたから、靴擦れしちゃって。女子あるあるなの。大丈夫」

蒼佑「いや、大丈夫じゃないだろ。痛そー」

 蒼佑、顔をしかめる。

蒼佑「こんなんでプール入って、痛くなかった?」

七瀬「え、ぜんぜん!」

蒼佑「でも、ひどくなっても困るし……、今日はもう帰ろう」

七瀬「え?やだ、帰りたくない!」

蒼佑「気持ちはわかるけど……。薬とか持ってる? 駅前にドラッグストアあったよな」

 そういいながら、ロッカールームに向かって歩き出す蒼佑。
 七瀬は、立ち止まったまま下を向いている。
 蒼佑、振り返る。

蒼佑「七瀬?」
七瀬「……早く帰って勉強したい?」
蒼佑「え」
七瀬「私、今日のデート、すごくすごく楽しみにしてたのに」
蒼佑「蒼佑にとっては、ただプールに遊びに行く1日だと思うけど、私にとっては……、この18年間で一番楽しみにしてた日なんだから!」
蒼佑「え、そんなに」
七瀬「勉強時間も体力も削られて、面倒だな、って思ってたんじゃない?」
蒼佑「いや、そんなんじゃないけど……、そんな風に思わせたなら、ごめん」

 七瀬、なんとも言えない表情。

七瀬(ごめんて。完全に私の言いがかりじゃん。)
七瀬(なんで謝るの?謝られたら、それ以上なにも言えなくなる……)

七瀬「こちらこそ、ごめん……」


○プールの出口。

七瀬「あー、楽しかった」

口ではそういいつつ、まだ少し浮かない顔の七瀬。

蒼佑「……あ、ちょっと忘れ物。どこか座って待っててもらっていい?」
七瀬「うん」

 七瀬、日陰のベンチに座り、スマホで今日の写真を見返す。楽しそうな自分たちの様子に思わず微笑む。数分後、肩をぽんとたたかれる。

七瀬「忘れ物あった? ……え?」

 七瀬が振り返ると、知らない男が立っていた。