第2話

○ファミレス

七瀬のとろけるように幸せそうな顔。
その向かいで、テキストに目を落とし勉強している蒼佑。
 蒼佑、顔を上げる。

蒼佑「ん? 分からないとこあった?」
七瀬「ううん! 大丈夫! 顔見てただけ!」
蒼佑「なんだよ、それ。あ、こんな時間か。七瀬、時間大丈夫?」

 七瀬、下の名前で呼ばれてドキッとする。

七瀬「大丈夫だよ……、蒼佑」

 七瀬、ぎこちなく蒼佑の名前を呼ぶ。蒼佑、七瀬の緊張感が可愛くて、くくっと笑う。

蒼佑「ごめん。じゃあ、このページだけ終わらすわ」

 再び下を向く蒼佑。テキスト越しに蒼佑を盗み見する七瀬。

七瀬(やばい、幸せすぎるー!!!)


○翌日、学校の教室。

有加・かえで「それはそれは、良かったね(棒)」
七瀬「ちょっとー。もうちょっと興味持ってよ」
有加「だって、七瀬ちゃんのデート話、そればっかじゃん。ファミレス行って、勉強して、って」
七瀬「それはさー、だって、うちら高2だもん。勉強大事!」
かえで「って、彼氏に丸め込まれてるわけね。」
七瀬「もう。変な言い方しないでよー。本当に、心のそこから幸せなんだから、私。」

七瀬(そう。本当にファミレスデートで幸せなんだ)

七瀬(だって、蒼佑の勉強の邪魔したくないし。)

 教室の、別グループの女子達が、目前に迫った夏休みの彼氏とのデートの話で盛り上がっているのが七瀬の目に入る。

七瀬(それに、私はまだ彼女(お試し期間中)なんだもん。ワガママ行ったら、返品交換されちゃうよ)

 他カップルがうらやましそうな表情の七瀬。そんな七瀬を見て顔を見合わせる有加とかえで。


○ファミレス

 勉強する蒼佑と、勉強をさぼって蒼佑をみつめる七瀬。

七瀬(とはいえ、ですよ)
七瀬(いいのよ、いいの。デートがファミレスだろうが、夏休みのお出かけ予定が無かろうが、そんなのはいいの)
七瀬(けどさ、ちょっと淡泊すぎないか、ってことですよ」

蒼佑、「ん?」と顔を上げる。なんでもない、と首を横に振る七瀬。

七瀬(私のこと、可愛いとは思ってくれてるはず。じゃなきゃ、いきなり告白して、仮とはいえOKもらえないでしょ)

七瀬(それならさ。……手、出してもいいんだよ?)

七瀬、ちらりと蒼佑の顔を下から覗き込む。蒼佑、勉強に夢中でまったく気づかない。

むーっと頬をふくらます七瀬。
スマホを取り出し、「高校生男子 キュンとするしぐさ」を検索。
「顔が近いとき」という文字を見つけ、そーっと顔を近づけてみる。

蒼佑「ん?なに」
七瀬「ぎゃっ」
蒼佑「大丈夫? どした?」
七瀬「なんでもない、ちょっと……座りっぱなしで腰が痛かったから、体操を……」
蒼佑「ああ、なるほど、わかるわー」

蒼佑、にこっと笑ってまたテキストに視線を落とす。

七瀬(え、分かるんかい!!!)

七瀬、また蒼佑を見つめる。

七瀬(ほんと、好青年だよな……)
七瀬(勉強好きで、優しくて、さわやかで、まじめで、さー)

七瀬、シャーペンを持つ蒼佑の指に視線をやる。

七瀬(細くてきれいな指。すぐそこにあるのに、触れることもできないなんて、これじゃ、片思い時代と一緒じゃんね)

七瀬(いや、近くにあるぶん、切なさ増し増しって感じさえする……)

 七瀬、深いため息をつく。
 となりの席に、七瀬達と同年代のカップルが座る。楽しそうにデートの計画を立てる2人をみつめる七瀬。
 ふと顔を上げた蒼佑が、そんな七瀬の様子に気づく。

蒼佑「夏休み、どっか行こうか」

 急に声をかけられて、びっくりする七瀬。

七瀬「え?」
蒼佑「いや、いつもファミレスとか自習室ばっかで申し訳ないと思ってて。俺らも行こう、プールとか、遊園地とか」
七瀬「えーっっっ!」

 ファミレスに響きわたる七瀬の声。
 店内中の人の視線を浴びて、あわてて声をひそめる七瀬。

七瀬「本当にいいの!? うれしい! うれしすぎる! えー、どこ行く? いっしょに行きたい所、いっぱいあるんだー」

 七瀬、スマホを取り出し、ネットでデートスポットを探し始める。 
 そんな七瀬を見て、微笑む蒼佑。

蒼佑「ほんと素直でかわいー」
七瀬「ん? なんか言った?」
蒼佑「ううん、何でもない」

 蒼佑、テキストを閉じてスマホを取り出す。


○プールデート前日。七瀬の部屋

七瀬、かえでと有加を前に、演説を始める。

七瀬「果物はなぜおいしいのか、花の蜜はなぜ甘いのか、ってことですよ」

かえで・有加「は?」

七瀬「それは、鳥や動物や虫に、種を運ばせたり受粉を手伝わせたり……つまり、自分の目標達成のため、なわけで」

かえで「はー、で、これってこと」

七瀬のベッドの上にはガーリーな服が、テーブルの上には化粧道具が所せましと並んでいる。

七瀬「その通り。これはもう、武装です。戦いです。負けられない戦いがここにある!!」

かえで「はいはい。で、うちらはその戦いを手伝うわけね」

七瀬「そう。私が世界一可愛い女子に見えるように、そして、蒼佑に『ああもう可愛い!好き!』って言わせられるように、アドバイスをお願いします!」

有加「了解。なんか、着せ替え人形遊びみたいで楽しい♡」

かえで「まぁ、確かに、ほんとにこういうの似合うわ、七瀬」

かえで・有加と洋服を選んだり、メイクの練習したり。
友人たちが帰った後も、パックをしたり、イメージトレーニングをしたりと入念にデートの準備をする七瀬。

七瀬(楽しみ! 楽しみ! 楽しみーーーーっ!!!)

七瀬のスマホが震える。蒼佑からのメッセージ。

蒼佑『明日、晴れるといいな。楽しみすぎて水着買ってしまった」

七瀬、スマホを抱きしめる。

七瀬(大丈夫、ぜったい楽しいデートになる。めざせ!本当の彼女!!)