──人生とは何があるか分からないものだ。

 そう、どこかの偉い人が言っていたような、もしくは架空の人物が作り出したような言葉が脳裏を掠める。

(私の人生、こんなに何も無くていいのかな)

 照り返る日差しが眩しく、夏葉(なつは)無意識で顔の上に手をかざす。

 社会人となってからは会社と家との往復で、恋愛する暇なんてなかった。
 次から次に友人の結婚報告がSNSで上げられるなか、恋愛経験はおろか恋人いない歴イコール年齢の自分にほとほと嫌気がさしていた。

 幸いにして、親戚の女性陣お約束の『いい人はいないの』発言が無いことが唯一の救いだろう。
 両親共に親戚は少ない方だが、そういう縁がない訳ではない。

 世間話という名目でお見合い話を持ってくる親戚はいるし、両親も立場上話は聞いてくれているが『夏葉が本当に好きな人と結婚していいんだよ』と言ってくれる。

 その言葉に甘えているのも分かっている。
 二十七年間で好きになった異性は居るが、付き合った異性はいない。
 好きになるまではいいが、キスから『その先』が怖いのも事実だった。

 こればかりは誰にも相談できず、いまだに夏葉の中に大きなモヤとして(くすぶ)っている。

「ふぅ……」

 照りつける日差しで思考が鈍っているのもあるが、頭の中を一旦整理したくて、夏葉はカバンの中に入っているお茶をゆっくりと一口含む。
 ひんやりとした冷たさが喉を潤した。