〇3年C組教室

翌日。熱が下がり登校してくる理世を見ていると、目が合いそうになり、勢いよく逸らしてしまう。

紬(これじゃ感じ悪い……でも)

昨日のことを思い出してしまい、まともに理世が見れない。

(回想)

理世「お前、今俺たちだけって状況の意味わかってる?」
紬「!い、意味って……」
紬(どいうことだろう……!?迷惑ってこと?それとも、これって……キスしちゃったり)

パニックになる紬から窓の外へと視線を移す理世。

理世「……雨、弱まったな。途中まで送ってく」
紬「え、あ、大丈夫だよ。理世くん、まだ体調戻ってないんだから」
理世「もう平気」

(回想終了)

押し倒されたときの理世の熱っぽい表情が忘れられなくて、意識ばかりしてしまう。
結果、理世が紬に話しかけようとするときも、恥ずかしくなって逃げてしまう。

理世「なあ」
紬「あ!よ、用事があったんだった」

目も合わせられない。
ちゃんと向き合わないとって思うのに、好きになってしまったことを知られたらこの関係が終わってしまう。

しかし昼休み、いよいよ屋上まで追い詰められ捕獲される。

〇屋上(昼)

理世「なんで逃げるんだよ」
紬「だ、だって……追いかけられるから」

二人とも息切れ。
それでもすきをついて逃げようとする紬を後ろから手をついて扉をしめる。
あまりの近さに困惑する。天馬くんも赤面なんじゃ…と思ってると、その顔は真剣だった。

理世「……お前、まさか俺のこと好き?」
紬「!」
理世「だから逃げてんのかよ」
紬「そ、れは……」
紬(言えない……好きになったなんて今更……)
紬「好きじゃないよ」

その答えが正しい。そう思ったのに、理世はしばらく無言で。なんだか見えない壁が作られたみたい。

理世「お前に言いたかったのは、変な奴が多いから気を付けろってだけ」

それだけ言って屋上からいなくなってしまう理世。

〇校門前

紬が一人で帰ろうとすると知らない他校の女子生徒に声をかけられる。
女子生徒1「あの……もしかして理世くんと付き合ってますか?」

こういうときはなんて返せばいいんだろうと悩んでいると。

女子生徒1「……いや、付き合ってないか」
紬「へ?」
女子生徒1「理世くん女嫌いだし、彼女なんて作るはずないし……じゃあまた家までついていって私を彼女にしてもらったほうが……」
紬(え……何言ってるんだろう)
紬(もしかして、理世くんが言ってた”変な人”ってこの子……?でも女の子……)

不穏で、一人でぶつぶつ言ってる姿にぞっとする。

女子生徒1「あ……その前に……理世くんに付きまとわないでくれません?迷惑してるから」
紬(怖い……でも、私の役割って天馬くんの女避けだから、ちゃんと伝えて)
紬「……つ、付き合ってます!理世くんと」
女子生徒1「……」
紬「だから、天馬くんのこともそっとしておいてほしいというか」
女子生徒1「……やだ、やだ……理世くんは私のものなのに……私のものなのに!」

ビンタされそうになり思わず目をつぶると、

理世「紬!」

大きな人影とともに抱き寄せられる。
見上げれば、理世が女子生徒の腕を掴み動きを制止している。

理世「迷惑だって、前から言ってるだろ」
女子生徒1「あ……ごめ、ごめんなさ……だって、その女が理世くんに付きまとってるから」
理世「彼女だから」

抱き寄せられる力が強くなる。

理世「二度と近づくな」

泣き出しそうになりながら走り去っていく女子生徒。

理世「なんかされたか!?」

過剰に紬を心配する理世に、必死で首を振る。

紬「う、ううん……大丈夫」
理世「……よかった」

心底安心したような表情で、座り込む理世。

理世「怪我でもしてたら……って思ったら、なんか力抜けた」
紬(そういえば、女の子に怪我はさせたくないって彼女のフリを頼まれたときも言ってた)

この数日で、理世が本当は優しい心の持ち主だということを知った。

紬(性格悪いなんて……あんなの嘘だ)
紬(こんなにも、誰かのために必死になれる人なのに)
紬「ごめんね、私が不甲斐ない彼女のフリしかできなくて」
理世「なんで謝んだよ。お前は悪くねえだろ」
紬「……ありがとう。でもどうしてあの子が来るってわかったの?)
理世「お前と付き合う……設定の前からよくつけられてたんだよ。彼女がいるってわかれば、諦めると思ってたけど、最近はなんかしつこくなってきて」
紬「あ、だから昼休み『気をつけろ』って言ってくれたんだ」
理世「俺がいないときになんかあったら嫌だろ。助けられないとか」
紬「……そっか」

うれしくて、頬が緩んでしまいそう。それに──

紬(さっき、名前呼ばれたの……うれしかったな)
紬「……あ、あの。さっき名前」
理世「名前?」
紬「下の名前で……その呼んでくれてたから」

指摘されて、初めて気づいたような顔で驚く理世。

理世「いや、あれはただ……!一応は彼女だし、それらしく呼ぶのは悪く……」

そこまで言いかけて、理世の言葉が止まる。

紬「天馬くん?」
理世「……やっぱ、名前で呼んでいい?」
紬「!」
紬(それって、彼氏彼女のフリをしてるからだよね?特別な意味なんてきっとない)

わかってるのに期待してしまう。
ぎこちなく頷けば、理世が息をのむのがわかった。

理世「じゃあ、つむ──」
颯真「紬!」
紬&理世「!」
颯真「”初恋”の彼氏が会いに来たぜ」