〇3年C組教室(朝)

翌日。

紬(あれ……天馬くん来ない)

1限目が始まる鐘が鳴っても理世は教室に現れない。
美月から「天馬くん休み?」と聞かれるものの「わからなくて」と曖昧に笑うしかない。

紬(連絡先も交換してないから、聞けないし)

でも、どこかで安心している自分もいる。
好きになりそうだと自覚してしまったから、今はできるだけ顔を合わせたくない。

放課後、担任から呼ばれる紬。

担任「天馬の家にこれ届けてくれないか?」
紬「え、あ……」
担任「お前ら付き合ってるんだろ?天馬も、お前ならいいって言ってたからな」
紬(私ならいい?)

担任からプリントが入ったファイルを渡され、住所が書かれた紙も挟まっていた。

〇豪華な一軒家・玄関前(夕方)

紬(言われた通り来ちゃったけど……お家大きすぎない!?)

あまりの豪邸にあんぐりと口を開けてしまう。
インターホンを鳴らしたいが、なんて言えばいいか分からないまま時間だけが過ぎていく。

紬(彼女です?クラスメイトです?友達……ええ、どうしよう!)
紬「……ええい!どうにでもなれ!」

ピンポーン。
鳴らすが、誰も出てこない。もう一度鳴らすものの足音ひとつ聞こえてこない。

紬(……これ、もしかして天馬くんが中で倒れてるパターンじゃないよね?!)

次第に心配になり、玄関扉に手をかけると、施錠されておらずすんなり開く。
玄関に人の手が見えて、理世が倒れている。

紬「ッ、天馬くん!!!」

〇理世の部屋(夕方)

なんとかベッドまで運び、ゼーゼー息切れしてる紬。

紬(と、とりあえず息してたからよかったけど、本気で救急車呼ぶところだった)

パニックになってる紬を、「やめろ」とガシっと服を掴んでる理世を思い出す。
スースー眠ってる理世をこそっと見る。寝顔さえイケメンなのかと感心さえする。
とりあえず額を冷やせるものとか探そうと立ち上がると、手首を掴まれる。

理世「行く、な」
紬「え」

ぐいっとベッドに引き込まれ、後ろから抱きしめられる。

紬(えええー!)
紬(こんなの好きになるなって言うほうが無理だよ!)

※理世視点

(回想)

入学式の朝。バス停で頭抱えてる女子がいて面倒だった。
いかにも「困ってます」みたいな顔してそこから一歩も動かないで。
いよいよ「もうダメかもしれない」なんて声が聞こえてきたら、素通りできなかった。

理世(めんどくせー……)

だから”わざと”飴を落とした。
それで気付かなかったらまた別の方法を考えようとしたけど、すぐに気付いて、顔をあげた。

理世(……変な勘違いされたら困る)

昔から、無駄に顔がよかったことで起こった災難を思い出す。
執拗にストーカーされたり、勝手に俺の彼女だってSNSにあげたり、逆に恨まれたりといった過去。
でも、一番いやだったのは、異性を意識するだけで赤面なるということ。
だから何がなんでも隠したかった。女と関わっていかなくてもいいって、そう思ってたのに。

(回想終了)

〇理世部屋(夜)

気付いたら夜で、目の前には紬が眠っている。
自分から抱きしめてることに気付いて赤面する理世。

理世「な、んで」

この状況に「!?!?!?!?」となっていると、紬のスマホに電話が入る。
”そうちゃん”と書かれている画面。

理世(……これ、前に電話かけてきてたやつ?男なんだよな?)

なぜかそれが、イラっとする。けれど、そう思う理由が分からない。
しばらく鳴っていた電話も止まる。

理世(……)
紬「ん……」

紬が目を冷ます。
とりあえず寝たふりをする理世。

紬「うぇっ……?!あ、そっか……天馬くんに手を掴まれたんだ……」
理世(俺が?)
紬「こんなの、天馬くん起きたらビックリしちゃうよね……」
理世(何ぶつぶつ言ってんだ)

理世を起こさないようにと、そおっとベッドから出ていく紬。その横顔は真っ赤。
紬がベッドから出たのを完全に確認してから、起きたフリをする理世。

紬「あ、お、お起きた?体調どうかな?」
理世「……ふつう」
紬「そっか!よかった。ええと……あ!こんな時間までいるのは、その、ちょっといろいろあって」
理世(俺のせいだろ)

でも、人のせいにしない紬の優しさに惹かれる。

紬「私はこれでお暇させてもらって」
理世「ん」

〇天馬家・玄関

紬「安静にしてね」
理世「ん」
紬「それじゃあ」

玄関を開けた瞬間、豪雨で一瞬にしてビショビショになる紬。
慌てて扉を占めるものの、玄関を濡らしたことに慌てる。

紬「わああ!ご、ごめんね!どうしよう、タオル」
理世「自分をまず拭けよ」
紬「靴とか大丈夫かな」

自分のことではなく周りのことを気にしまくる紬に「あーもう!」と理世がそのまま洗面所に連れていく。

〇天馬家・リビング(夜)

理世「とりあえず着替えろ」
紬「あ、でも着替えは……」
理世「これ」

渡された理世の黒のパーカー。ありがとうをいう前に洗面所を出ていく理世の顔が赤い。なんでだろうと思ってると、鏡越しでワイシャツが濡れて下着がうっすら見えてしまっていた。

紬(は、恥ずかしい…!)

ありがたく着替えさせてもらい廊下に出ると、パーカー姿の紬が可愛すぎて言葉を失う理世。
    
紬「あ、あの……ありがとう。洗って返すから」
理世「……ッ、いい、別に。雨が止むまでここにいろ」
紬「う、うん」

◯天馬家・リビング(夜)

改まって見ると、家の中も広くて綺麗。だけど、綺麗過ぎて、モデルルームみたい。生活感がない。

紬「親御さんとか兄弟とかもう帰ってくる?」
理世「帰ってこない。兄弟いないし、親も自分の家より人の家が大事らしいからな」
紬「人の家?」
理世「2人とも建築家だから。人の家ばっか作って、ここには滅多に帰ってこない」
紬「あ……そうなんだ」

だからちょっと寂しい感じがしたのかな。
こんな広い家で一人だけって、どんな気持ちなんだろう。
家族写真らしいものが一枚だけ写真立てに入れられて飾られている。それを見ようとした紬を止めようとして理世が手を伸ばすものの、2人してバランスを崩して転倒。

紬が押し倒される形。見上げた理世の顔があまりにも近くて、ドキドキしてしまう。
そんな紬を見て理世も顔が赤くなるけど。

理世「……お前、今俺たちだけって状況の意味わかってる?」