〇街中(夕方)
紬「い、いきなり何……!?」
ちらっと理世を見るものの、聞こえてなかったのかスマホを触ってる。
電話の向こうでは、賑やかそうな声が聞こえる。
由梨『もう、またあんたはそういうこと言って!あ、紬?由梨だよ』
中学まで一緒だった幼馴染2人を思い出す。
みんな同い年だけど、颯真も由梨も過保護な兄・姉タイプで、颯真の「彼氏設定」は昔からの鉄板ネタだった。
紬「あ、由梨ちゃん!元気そうだね」
由梨『馬鹿と一緒に元気してるよ、紬は?』
紬「元気だよ。なんか2人と話すの久しぶりだね」
由梨『ほんとだよー、あ、近々、紬が住んでる場所に遊びに行くことになったから、その報告』
由梨『それと、もしかしたら日奈子も一緒に行くかもしれなくて』
紬「え……」
紬が恋愛に対してトラウマになってる原因でもある”日奈子”の名前に動揺する。
それを、理世が無言ながらも気づいている様子。
由梨『あーごめん。やっぱ今でも会うの気まずい?』
紬「あっ……ううん、そんなことはない……ただ、あれからちゃんと顔合わせてないなと思って」
なんとか笑顔を取り繕うものの、心の中では不安でしかなかった。
由梨『そっか。分かった、やっぱ私と馬鹿だけでそっち行くわ』
颯真『おい、馬鹿ってまさか俺のことじゃ──』
電話が切られて、そのままじっと画面を見つめる。
紬(日奈子ちゃんか……久しぶりに名前聞いたな。まだあの2人とは連絡取ったりしてたんだ)
理世「終わった?」
紬「ッ!あ、うん、ありがと──!?」
段差につまずき転びかけそうになり、咄嗟に理世の手を掴んでしまう。
理世のおかげで転ばずに済んだものの、掴んだ衝撃で、理世の手の甲に爪で引っかいてしまい傷を作ってしまう。血がうっすらと滲み始めたのを見て目を見開く紬。
紬「うそ……こんな、本当ごめんなさい……!」
理世「これぐらいで謝んなよ。つーか、転んでばっかだな」
紬「あ……ほんとだよね。ごめんね、迷惑ばっかかけちゃって……あの、絆創膏だけでも」
慌てて財布から絆創膏を取りだす。しかし、その手は震えてる。
紬「これで隠れる大きさかな……」
理世「……」
紬(まともに彼女のフリができなかった挙句に、怪我までさせちゃうなんて、彼女失格だ)
申し訳なさいっぱいになっている紬の手を、理世がぎゅっと握る。
紬「え……」
理世「こんなの痛くねえよ」
紬「あ……」
理世「だからそんな顔すんな」
泣きそうになっていた紬に優しい言葉をかける理世。
紬「あ……ありがとう」
理世「ん」
手は離れていくのに、理世の体温が残っている。
その熱が忘れられない。
〇教室(朝)
美月「さあて、詳しくお話聞かせてもらいましょうかねー」
紬「あ、あはは……」
翌日。美月からの質問攻めに苦笑している紬。
まだ理世は登校しておらず、クラスメイトたちもソワソワしている。
美月「いつから付き合ってるの!」
紬「さ、最近かな……?」
紬(本当は昨日からなんだけど……!)
美月「はぁ、紬の好きな人が天馬くんだとは思わなかったなぁ。しかも付き合ってるなんて」
紬「打ち明けるタイミングを探してて……」
美月「まあ、言えないよね~分かるよ。いざ付き合えたらいろいろ障害あるだろうしさ」
紬「う、うん……」
実際、登校するまでも何度か注目を浴びていた。
「あの子が彼女?」と囁かれていて、なんとも居心地の悪い朝からスタートしていた。
美月「でも天馬くんってああいうタイプなんだ」
紬「え?」
美月「彼女ができたら公表する人なんだってこと。隠すタイプかと思ってたからさ」
紬(それは偽りの彼女だからなんだけど……言えなくてごめんね、美月ちゃん)
申し訳なくて、縮こまっていると、理世が教室に現れる。
紬と目が合うと、
理世「おはよ」
紬「あ、……お、はよ」
2人の会話に「キャー!」となってる美月とクラスメイトたち。
〇中庭(昼)
お弁当を広げる紬と、パンを食べる理世。
美月に「彼氏との昼デートを邪魔するわけないじゃん!」と送り出され「あとで報告よろ!」まで言われる。
紬「あ……怪我、大丈夫だった?」
爪で引っかいたところにはまだ絆創膏が貼ってある。
理世「へーき。なんかされたか」
紬「え?なんか……」
紬(あ、もしかして嫌がらせの類かな?)
紬「ううん、なにもだよ。むしろ穏やかすぎるぐらいで」
理世「そ」
会話終了。何か話したいと思っていると理世の手元に視線がいく。
紬「天馬くんのパン美味しそうだね!」
理世「うまそうなのは、そっちの弁当じゃね」
紬「これ?そんなことないよ。いつも適当に作ってるだけで」
理世「お前が作ってんの?」
紬「え?うん……これぐらいならちゃちゃっと」
理世「……」
じーっと弁当を見られている。
紬「あ、ええと……もしよかったら食べる?なんて……あはは」
理世「うん」
紬「だよね、いらないよね……え?」
理世「食う」
紬「……」
思わぬ反応にフリーズする。
理世「おい」
紬「ハッ!ええと、はい」
咄嗟に「あーん」の要領で卵焼きを箸にとって理世の口元へ持っていく。
その瞬間、真っ赤に染まる理世の顔。
紬「え……あ!」
紬(なにしてるの私!)
理世、赤面しながらも、思い切って食べる。
理世「……うまい」
紬(あ……ダメだ)
横顔を見て思う。
紬(これ、好きになっちゃうやつだ)
紬「い、いきなり何……!?」
ちらっと理世を見るものの、聞こえてなかったのかスマホを触ってる。
電話の向こうでは、賑やかそうな声が聞こえる。
由梨『もう、またあんたはそういうこと言って!あ、紬?由梨だよ』
中学まで一緒だった幼馴染2人を思い出す。
みんな同い年だけど、颯真も由梨も過保護な兄・姉タイプで、颯真の「彼氏設定」は昔からの鉄板ネタだった。
紬「あ、由梨ちゃん!元気そうだね」
由梨『馬鹿と一緒に元気してるよ、紬は?』
紬「元気だよ。なんか2人と話すの久しぶりだね」
由梨『ほんとだよー、あ、近々、紬が住んでる場所に遊びに行くことになったから、その報告』
由梨『それと、もしかしたら日奈子も一緒に行くかもしれなくて』
紬「え……」
紬が恋愛に対してトラウマになってる原因でもある”日奈子”の名前に動揺する。
それを、理世が無言ながらも気づいている様子。
由梨『あーごめん。やっぱ今でも会うの気まずい?』
紬「あっ……ううん、そんなことはない……ただ、あれからちゃんと顔合わせてないなと思って」
なんとか笑顔を取り繕うものの、心の中では不安でしかなかった。
由梨『そっか。分かった、やっぱ私と馬鹿だけでそっち行くわ』
颯真『おい、馬鹿ってまさか俺のことじゃ──』
電話が切られて、そのままじっと画面を見つめる。
紬(日奈子ちゃんか……久しぶりに名前聞いたな。まだあの2人とは連絡取ったりしてたんだ)
理世「終わった?」
紬「ッ!あ、うん、ありがと──!?」
段差につまずき転びかけそうになり、咄嗟に理世の手を掴んでしまう。
理世のおかげで転ばずに済んだものの、掴んだ衝撃で、理世の手の甲に爪で引っかいてしまい傷を作ってしまう。血がうっすらと滲み始めたのを見て目を見開く紬。
紬「うそ……こんな、本当ごめんなさい……!」
理世「これぐらいで謝んなよ。つーか、転んでばっかだな」
紬「あ……ほんとだよね。ごめんね、迷惑ばっかかけちゃって……あの、絆創膏だけでも」
慌てて財布から絆創膏を取りだす。しかし、その手は震えてる。
紬「これで隠れる大きさかな……」
理世「……」
紬(まともに彼女のフリができなかった挙句に、怪我までさせちゃうなんて、彼女失格だ)
申し訳なさいっぱいになっている紬の手を、理世がぎゅっと握る。
紬「え……」
理世「こんなの痛くねえよ」
紬「あ……」
理世「だからそんな顔すんな」
泣きそうになっていた紬に優しい言葉をかける理世。
紬「あ……ありがとう」
理世「ん」
手は離れていくのに、理世の体温が残っている。
その熱が忘れられない。
〇教室(朝)
美月「さあて、詳しくお話聞かせてもらいましょうかねー」
紬「あ、あはは……」
翌日。美月からの質問攻めに苦笑している紬。
まだ理世は登校しておらず、クラスメイトたちもソワソワしている。
美月「いつから付き合ってるの!」
紬「さ、最近かな……?」
紬(本当は昨日からなんだけど……!)
美月「はぁ、紬の好きな人が天馬くんだとは思わなかったなぁ。しかも付き合ってるなんて」
紬「打ち明けるタイミングを探してて……」
美月「まあ、言えないよね~分かるよ。いざ付き合えたらいろいろ障害あるだろうしさ」
紬「う、うん……」
実際、登校するまでも何度か注目を浴びていた。
「あの子が彼女?」と囁かれていて、なんとも居心地の悪い朝からスタートしていた。
美月「でも天馬くんってああいうタイプなんだ」
紬「え?」
美月「彼女ができたら公表する人なんだってこと。隠すタイプかと思ってたからさ」
紬(それは偽りの彼女だからなんだけど……言えなくてごめんね、美月ちゃん)
申し訳なくて、縮こまっていると、理世が教室に現れる。
紬と目が合うと、
理世「おはよ」
紬「あ、……お、はよ」
2人の会話に「キャー!」となってる美月とクラスメイトたち。
〇中庭(昼)
お弁当を広げる紬と、パンを食べる理世。
美月に「彼氏との昼デートを邪魔するわけないじゃん!」と送り出され「あとで報告よろ!」まで言われる。
紬「あ……怪我、大丈夫だった?」
爪で引っかいたところにはまだ絆創膏が貼ってある。
理世「へーき。なんかされたか」
紬「え?なんか……」
紬(あ、もしかして嫌がらせの類かな?)
紬「ううん、なにもだよ。むしろ穏やかすぎるぐらいで」
理世「そ」
会話終了。何か話したいと思っていると理世の手元に視線がいく。
紬「天馬くんのパン美味しそうだね!」
理世「うまそうなのは、そっちの弁当じゃね」
紬「これ?そんなことないよ。いつも適当に作ってるだけで」
理世「お前が作ってんの?」
紬「え?うん……これぐらいならちゃちゃっと」
理世「……」
じーっと弁当を見られている。
紬「あ、ええと……もしよかったら食べる?なんて……あはは」
理世「うん」
紬「だよね、いらないよね……え?」
理世「食う」
紬「……」
思わぬ反応にフリーズする。
理世「おい」
紬「ハッ!ええと、はい」
咄嗟に「あーん」の要領で卵焼きを箸にとって理世の口元へ持っていく。
その瞬間、真っ赤に染まる理世の顔。
紬「え……あ!」
紬(なにしてるの私!)
理世、赤面しながらも、思い切って食べる。
理世「……うまい」
紬(あ……ダメだ)
横顔を見て思う。
紬(これ、好きになっちゃうやつだ)



