〇空き教室
何を言われたかわからない紬。
しかし、「彼女」というワードに、ぼん、と顔が赤くなる。
紬「そ、そそそれは、彼氏彼女の……?」
律「そうだけど違う」
紬「へ?」
どういう意味なのかと尋ねようとすると。
理世「フリをすればいい」
紬「……ん?」
理世「俺の彼女になった設定」
紬「え……な、なんで私が?」
理世「……お前だけなんだよ、これ知ってるの」
自分で紬の腕を引っ張っておきながら、しっかりと真っ赤になってる理世。
なんでも、これまで女嫌いだと思っていた理世は、実は異性を前にすると赤面してしまうことがコンプレックスだった。
だから徹底的に女子を遠ざけているのに、ついこの間、告白されて断ったら抱きつかれそうになり、勢いよく突き飛ばしてしまったらしい。
理世「……怪我をさせたいわけじゃない。ただ、……これを知られたくないだけで」
紬「そ、そっか。たしかにそれは危ないもんね」
理世「だから、彼女がいるってことにすれば、抱きつかれる心配はなくなるだろ」
紬「……つまり、その彼女役として私を?」
理世「そう」
紬(そっか~~~!って、ならないよ……!私が、天馬くんの彼女って!いくらフリとは言っても、さすがに周りの目が痛い……)
紬(それに)
トラウマとなったクラスメイトの女の子の涙が過る。
紬(……あんな思い、二度としたくない)
紬「あ、あの……さすがに彼女になるのは」
理世「どうしてもダメか?」
若干潤んだ瞳で見つめられ、言葉を失う。
「天馬理世の破壊力はヤバイ」と美月が言っていた理由が今ならなんとなく分かる気がする。
紬「ッ……ど、どうしてもって言われると」
紬(ダメダメ、断らないと!天馬くんを好きな子からどう思われるか)
理世「頼む、お前しかいない。お前が断ったら、怪我人が出る」
紬「~~~~!?!?」
紬(断るの、紬!)
理世「(うるうるした目)」
紬「やります」
引き受けちゃったよ~~~!
自分で言っておきながら激しく後悔していると、「あ」と理世が思い出したように言う。
理世「これだけは守ってほしいんだけど」
紬「うん?」
理世「俺のこと、本気で好きになんなよ」
〇3年C組教室(朝)
美月「紬遅かったね。珍しく遅刻かと思った」
1限目を終えて、休み時間になると美月が心配そうな顔でやってくる。
紬「あ……うん、ちょっと寝坊しちゃって」
美月「もしかして好きな人と遅くまで電話してたとか?」
紬「ち、ちがうよ!」
美月「あやしいな~、まっ、いつか話してね」
紬「……う、うん」
結局、理世からの頼みを断れなかった。
紬(美月ちゃんに、天馬くんのこと話そうと思ったけど、なんて言えばいいか分からない)
紬(彼氏彼女のフリになったって話すと、天馬くんのあの顔も話すことになるかもしれないし)
理世が赤面した顔を思い出す。
誰にも言わないと約束した手前、それを省いて説明することが難しい。
〇(夕方)
結局言えないまま放課後になり、美月から一緒に帰ろうと言われる。頷こうとすれば、
理世「帰るぞ」
紬の席まで来た理世に美月が驚き、クラスメイトたちも同じ反応を見せる。
美月「え、え、どういうこと?」
紬「あ、あのね……これには事情が」
理世「付き合ってんだから一緒に帰るぐらい普通だろ」
紬「!」
「ええええ!」と教室内で響き渡る。突然の彼氏彼女宣言にびっくり。
美月に話せていなかったから、嫌な思いをさせてしまってるかもと思っていると、
美月「なになに!?うっそ、そういうこと!?明日詳しく聞かせてよ」
と笑顔で送り出される。周囲の視線をかっさらいながらも教室を後にした二人。
〇街中(夕方)
学校を出てから無言で歩く二人。
どう声かけようか迷ってると「悪かったな」と声が聞こえる。
理世「いきなりあんなこと言って」
耳まで真っ赤になってる理世。
皆の前で付き合ってると言ったことが恥ずかしかったんだと知る。
その赤面した顔が見たくなるのをぐっとこらえる。
紬「う、うん。一応、彼女のフリだし……」
紬(引き受けちゃったからには、さすがにあれはナシで!とは言えない……)
紬(でも……)
赤くなってる理世の横顔を見つめながら、朝言われた「俺のこと、本気で好きになんなよ」を思い出す。
紬(天馬くんは、私が天馬くんを好きになっちゃうと、彼女のフリはやめてもらわなきゃいけないからって言ってた)
紬(もちろん、好きになることはないって思いたいし、恋愛はもう懲り懲りだから大丈夫だと思うけど)
紬「ええと……じゃあこの辺で」
女子生徒「あれー?理世くんじゃん!」
誰かに声をかけられる。振り返れば女子高生2人組。
どうやら理世の顔見知りらしい。
女子高生1「理世くん女嫌い治ったの?」
女子高生2「え、この人がミクと同中だった噂の理世くん?めちゃイケメンじゃん」
女子高生1「だよね~彼女とか絶対作らなかったからみんな見てるだけだったけど……」
と、女子高生2人の視線が紬に向かう。
女子高生1「……まあ、彼女なわけないよね~」
女子高生2「私も思った!」
ぎゃははと笑われ、なんとか笑顔でいるようにするも心が傷つく。
紬(彼女のフリをするって約束だけど、でも、私じゃ彼女なんか見られないのか……)
理世「彼女だけど」
理世に肩を抱き寄せられる。その声はどこか怒っているようで女子高生2人の顔色が気まずそうになる。
女子高生1「え……そうなんだ」
女子高生2「へえ……ちょ、邪魔になるから行こ」
去って行く2人。それを見てから、理世に触れられている部分にドキドキする。
紬「あ……ええと」
理世「!」
勢いよく理世の手が離れていく。
本当に女の子の前だと顔が赤くなること多いんだなと思う。
理世「……わりい」
紬「え?」
理世「彼女とか、言って」
紬(そっか、そのために私がいるんだよね)
紬「天馬くんの彼女だって信じてもらえるように頑張るよ!」
理世「……別に頑張らなくていいけど」
紬「え……じゃあ、ほどほどに?」
理世「ふっ、なんだよそれ」
いつも無愛想な顔が、少しだけ緩く笑って目を奪われる。
紬(天馬くんの笑顔、初めて見た……キュンとする)
紬(あれ……キュンとするって思った?)
抱いた感情がよく分からないでいると、スマホに電話が入る。
画面に表示された”そうちゃん”の名前。
理世「出れば?」
紬「あ、うん、ごめんね……もしもし?」
颯真『あ、紬?元気かー?彼氏が電話してやったぞ』
紬「!?」
理世「……」
何を言われたかわからない紬。
しかし、「彼女」というワードに、ぼん、と顔が赤くなる。
紬「そ、そそそれは、彼氏彼女の……?」
律「そうだけど違う」
紬「へ?」
どういう意味なのかと尋ねようとすると。
理世「フリをすればいい」
紬「……ん?」
理世「俺の彼女になった設定」
紬「え……な、なんで私が?」
理世「……お前だけなんだよ、これ知ってるの」
自分で紬の腕を引っ張っておきながら、しっかりと真っ赤になってる理世。
なんでも、これまで女嫌いだと思っていた理世は、実は異性を前にすると赤面してしまうことがコンプレックスだった。
だから徹底的に女子を遠ざけているのに、ついこの間、告白されて断ったら抱きつかれそうになり、勢いよく突き飛ばしてしまったらしい。
理世「……怪我をさせたいわけじゃない。ただ、……これを知られたくないだけで」
紬「そ、そっか。たしかにそれは危ないもんね」
理世「だから、彼女がいるってことにすれば、抱きつかれる心配はなくなるだろ」
紬「……つまり、その彼女役として私を?」
理世「そう」
紬(そっか~~~!って、ならないよ……!私が、天馬くんの彼女って!いくらフリとは言っても、さすがに周りの目が痛い……)
紬(それに)
トラウマとなったクラスメイトの女の子の涙が過る。
紬(……あんな思い、二度としたくない)
紬「あ、あの……さすがに彼女になるのは」
理世「どうしてもダメか?」
若干潤んだ瞳で見つめられ、言葉を失う。
「天馬理世の破壊力はヤバイ」と美月が言っていた理由が今ならなんとなく分かる気がする。
紬「ッ……ど、どうしてもって言われると」
紬(ダメダメ、断らないと!天馬くんを好きな子からどう思われるか)
理世「頼む、お前しかいない。お前が断ったら、怪我人が出る」
紬「~~~~!?!?」
紬(断るの、紬!)
理世「(うるうるした目)」
紬「やります」
引き受けちゃったよ~~~!
自分で言っておきながら激しく後悔していると、「あ」と理世が思い出したように言う。
理世「これだけは守ってほしいんだけど」
紬「うん?」
理世「俺のこと、本気で好きになんなよ」
〇3年C組教室(朝)
美月「紬遅かったね。珍しく遅刻かと思った」
1限目を終えて、休み時間になると美月が心配そうな顔でやってくる。
紬「あ……うん、ちょっと寝坊しちゃって」
美月「もしかして好きな人と遅くまで電話してたとか?」
紬「ち、ちがうよ!」
美月「あやしいな~、まっ、いつか話してね」
紬「……う、うん」
結局、理世からの頼みを断れなかった。
紬(美月ちゃんに、天馬くんのこと話そうと思ったけど、なんて言えばいいか分からない)
紬(彼氏彼女のフリになったって話すと、天馬くんのあの顔も話すことになるかもしれないし)
理世が赤面した顔を思い出す。
誰にも言わないと約束した手前、それを省いて説明することが難しい。
〇(夕方)
結局言えないまま放課後になり、美月から一緒に帰ろうと言われる。頷こうとすれば、
理世「帰るぞ」
紬の席まで来た理世に美月が驚き、クラスメイトたちも同じ反応を見せる。
美月「え、え、どういうこと?」
紬「あ、あのね……これには事情が」
理世「付き合ってんだから一緒に帰るぐらい普通だろ」
紬「!」
「ええええ!」と教室内で響き渡る。突然の彼氏彼女宣言にびっくり。
美月に話せていなかったから、嫌な思いをさせてしまってるかもと思っていると、
美月「なになに!?うっそ、そういうこと!?明日詳しく聞かせてよ」
と笑顔で送り出される。周囲の視線をかっさらいながらも教室を後にした二人。
〇街中(夕方)
学校を出てから無言で歩く二人。
どう声かけようか迷ってると「悪かったな」と声が聞こえる。
理世「いきなりあんなこと言って」
耳まで真っ赤になってる理世。
皆の前で付き合ってると言ったことが恥ずかしかったんだと知る。
その赤面した顔が見たくなるのをぐっとこらえる。
紬「う、うん。一応、彼女のフリだし……」
紬(引き受けちゃったからには、さすがにあれはナシで!とは言えない……)
紬(でも……)
赤くなってる理世の横顔を見つめながら、朝言われた「俺のこと、本気で好きになんなよ」を思い出す。
紬(天馬くんは、私が天馬くんを好きになっちゃうと、彼女のフリはやめてもらわなきゃいけないからって言ってた)
紬(もちろん、好きになることはないって思いたいし、恋愛はもう懲り懲りだから大丈夫だと思うけど)
紬「ええと……じゃあこの辺で」
女子生徒「あれー?理世くんじゃん!」
誰かに声をかけられる。振り返れば女子高生2人組。
どうやら理世の顔見知りらしい。
女子高生1「理世くん女嫌い治ったの?」
女子高生2「え、この人がミクと同中だった噂の理世くん?めちゃイケメンじゃん」
女子高生1「だよね~彼女とか絶対作らなかったからみんな見てるだけだったけど……」
と、女子高生2人の視線が紬に向かう。
女子高生1「……まあ、彼女なわけないよね~」
女子高生2「私も思った!」
ぎゃははと笑われ、なんとか笑顔でいるようにするも心が傷つく。
紬(彼女のフリをするって約束だけど、でも、私じゃ彼女なんか見られないのか……)
理世「彼女だけど」
理世に肩を抱き寄せられる。その声はどこか怒っているようで女子高生2人の顔色が気まずそうになる。
女子高生1「え……そうなんだ」
女子高生2「へえ……ちょ、邪魔になるから行こ」
去って行く2人。それを見てから、理世に触れられている部分にドキドキする。
紬「あ……ええと」
理世「!」
勢いよく理世の手が離れていく。
本当に女の子の前だと顔が赤くなること多いんだなと思う。
理世「……わりい」
紬「え?」
理世「彼女とか、言って」
紬(そっか、そのために私がいるんだよね)
紬「天馬くんの彼女だって信じてもらえるように頑張るよ!」
理世「……別に頑張らなくていいけど」
紬「え……じゃあ、ほどほどに?」
理世「ふっ、なんだよそれ」
いつも無愛想な顔が、少しだけ緩く笑って目を奪われる。
紬(天馬くんの笑顔、初めて見た……キュンとする)
紬(あれ……キュンとするって思った?)
抱いた感情がよく分からないでいると、スマホに電話が入る。
画面に表示された”そうちゃん”の名前。
理世「出れば?」
紬「あ、うん、ごめんね……もしもし?」
颯真『あ、紬?元気かー?彼氏が電話してやったぞ』
紬「!?」
理世「……」



