〇視聴覚室(夕方)
仰向けで寝ていた理世の上に、馬乗りになった紬。
黒いカーテンからこぼれた夕陽が、理世の顔に差し込む。
黒髪に片耳ピアス、少しはだけたシャツから鎖骨が見える。
赤面を隠すように手の甲で隠し逃れようとするのを、紬がじっと見つめる。
理世「ッ、早くどけよ」
紬「……かわいい」
理世「は?」
紬(あの天馬くんが真っ赤だ)
理世「……見んな、くそ」
手を伸ばし、理世に触れようとする。
紬(ダメなのに……もっと)
紬「……見たい」
〇3年C組教室(朝)
美月「もう〜絶対この学校にいるでしょ!紬の好きな人!」
紬「ええ?いやあ、あはは」
紬:ストレートロング、背中あたりまである栗色の髪
美月:ゆるっと巻いた茶髪。胸元ぐらいまであり、恋バナ好き
紬(やっぱり今日もその話だ……前に聞かれて、”好きな人がいる”ってことだけにはしちゃったんだよね)
望月 紬。実は初恋さえ未経験の”恋愛初心者”。
本当は好きな人なんていない。だけど、恋バナ大好きな美月とせっかく仲良くなれたんだからと、話を合わせるために嘘をついてしまっていた。
今さら、いないとも切り出せず、曖昧に過ごしてきた日々に罪悪感が募ってるのだけど。
紬(それにもう、恋とかそういうのはしないって決めたんだ)
中学生のときに、「裏切るなんて最低!」と友達だった女の子に泣かれたことを思い出して胸が痛む。
美月「じゃあ話してくれるまでいつまでも待つから」
紬「う、うん、ありがとう」
なんとか難を逃れていると廊下から歓声のようなものが聞こえる。
美月「来たね」
その一言とともに、やってきたのは天馬理世。
美月「はあ、天馬理世って毎日神ってるよね。マジで目の保養」
紬「そ、そうだね」
目の保養なのかはいまいち分からない。
初恋さえ経験していない紬からすると、恋がどういうものなのか、かっこいいと盛り上がれる気持ちがどういうことなのか、ずっと分からないままでいる。
紬(こんなの、やっぱり変なのかな…)
美月「あんなイケメンなのに彼女いないとか何事なんだろ」
紬「あはは……(苦笑い)」
美月「でもさ、性格最悪なんだよねえ」
入学してから絶対的なモテ王子であるにも関わらず、彼女がいない理由は性格だった。
これまで理世に告白してきた女子生徒が見事に玉砕して泣いていたり、触れそうになって勢いよく女の子を突き飛ばしたりと、散々なシーン。
美月「まあでも顔がいいって罪だよね。性格悪くても、結局顔がよかったら良しみたいなとこあるし」
紬(……性格、か)
(回想)
〇桜並木(朝)
入学式。
中学卒業とともにこの地にやってきた紬は、知り合いが一人もいない学校生活に不安を抱えていた。
紬(どうしよう……うまくやれるかな)
バス停から一歩も動けなくなっている紬。
元から引っ込み思案で、表に出ることは苦手で友達作りもうまくなかった。
紬(いつも、そうちゃんとか由梨ちゃんがいてくれたからな)
紬(今日次第で、これから3年間が決まっちゃうって思うと緊張……)
頭を抱えていると、ポロっと足元に何かが転がる。なんだろうと思っている飴が包まれている包装紙。
見上げると、桜の花びらと一緒に見えた整った顔に息を呑む。こんな綺麗な人いるんだ、と思うと同時に、睨まれる。
理世は落とした飴を見て、そのままスタスタ行ってしまう。
紬「あっ……落としました……よ」
勇気を振り絞って声をかけると、足を止める理世。その顔は迷惑そうといった顔。
理世「いらねー」
紬「え……」
そう言っては今度こそ遠ざかっていく背中。
どうしようか悩んで、結局拾うことにしては、キョロキョロと辺りを見渡す。
なんとなく、くれたような気がする。
紬(食べてもいいかな…?いい、よね?でも……)
と葛藤しながらも、えいっと口に含むと、だんだん緊張が和らぐ。
あのときの飴があったから、なんとか緊張しながらも学校に行けて、美月とも友達になれた。
いつかお礼が言いたいと思いつつも、入学してから一度も、まともに会話さえできていない。
(回想終了)
〇廊下(夕方)
ポスターやらが入った段ボールを持って歩く紬。
紬(ううう、運悪く先生に捕まっちゃった)
担任が、「これ実験室な。よろしく頼んだ!」と軽やかに頼み、軽やかに去っていく姿が流れている。
昔から頼まれると断れない性格で、掃除当番も運動会のリレーも、誰もやりたくないことを押し付けられると断れなかった。
〇視聴覚室(夕方)
紬「あ、そういえば実験室って開いてるのかな?鍵ないけど……あれ」
実験室の扉が少しだけ開いている。
足でひょいっと扉をスライドさせ、中に入る。
紬「真っ暗……どこに置いたらいいだ……ろ!?」
抱えている段ボールで下が見えず、何かにつまづいた紬。
そのままバランスを崩して転倒しかけるものの、痛くない。目を開けると、
理世「!」
暗闇の中に差し込んだ光で倒れていた人の顔を照らす。
仰向けで寝ていた理世が、紬を見て目を見開いている。
理世「……ッ、…どけ」
そこには、赤面した律の姿があり、ボーッと見惚れる紬。
理世「見んな、くそ」
紬「……かわいい」
普段、冷たい目をして女子を遠ざけている理世が、紬を前にして顔を真っ赤にしている。
潤んだ瞳に自分(紬)が映っていて、それをもっと近くで見たくて顔を近付ける。
紬(きれー……ガラス玉みたい)
紬「……」
理世「ちかい!」
紬(ぽーっとした顔)
理世「いいからどけって!」
紬「!」
紬がハッとしたような顔。あの天馬律に馬乗りになっている状況にてんやわんや。
紬「あっ……ごめんなさい、あの」
理世「誰にも言うなよ!」
強引に紬から逃げるようにして理世が視聴覚室から出ていく。
〇紬の自宅・紬部屋(夜)
紬「やっちゃったあああ……」
ボロボロ泣きながらベッドの上をゴロゴロと回転している紬。
紬「なんであんなことしちゃったんだろう」
赤面した理世を思い出しては、ぼんっと顔が赤くなり、それからまた涙が出る。
紬「……お礼、言いたかったな」
あの日、もらった飴の包み紙を手にする。
ずっと捨てられないまま大事にしまってあった。
〇学校・昇降口(朝)
はあ、と自然とこぼれていくため息。
どんな顔をして教室に行けばいいんだろうと思っていると、昇降口から一番近い部屋から突然出てくる腕。
驚く暇もないまま引きずりこまれると、その先には理世がいた。
理世「おせー」
無愛想な顔で立っている律。その姿に余計にパニックになる紬。
紬(な、なんで……もしかして昨日のことで激怒してるとか?)
紬「あ、あの!昨日は本当にごめんな──」
理世「付き合え」
紬「……え?」
理世「お前、俺の彼女になれ」
仰向けで寝ていた理世の上に、馬乗りになった紬。
黒いカーテンからこぼれた夕陽が、理世の顔に差し込む。
黒髪に片耳ピアス、少しはだけたシャツから鎖骨が見える。
赤面を隠すように手の甲で隠し逃れようとするのを、紬がじっと見つめる。
理世「ッ、早くどけよ」
紬「……かわいい」
理世「は?」
紬(あの天馬くんが真っ赤だ)
理世「……見んな、くそ」
手を伸ばし、理世に触れようとする。
紬(ダメなのに……もっと)
紬「……見たい」
〇3年C組教室(朝)
美月「もう〜絶対この学校にいるでしょ!紬の好きな人!」
紬「ええ?いやあ、あはは」
紬:ストレートロング、背中あたりまである栗色の髪
美月:ゆるっと巻いた茶髪。胸元ぐらいまであり、恋バナ好き
紬(やっぱり今日もその話だ……前に聞かれて、”好きな人がいる”ってことだけにはしちゃったんだよね)
望月 紬。実は初恋さえ未経験の”恋愛初心者”。
本当は好きな人なんていない。だけど、恋バナ大好きな美月とせっかく仲良くなれたんだからと、話を合わせるために嘘をついてしまっていた。
今さら、いないとも切り出せず、曖昧に過ごしてきた日々に罪悪感が募ってるのだけど。
紬(それにもう、恋とかそういうのはしないって決めたんだ)
中学生のときに、「裏切るなんて最低!」と友達だった女の子に泣かれたことを思い出して胸が痛む。
美月「じゃあ話してくれるまでいつまでも待つから」
紬「う、うん、ありがとう」
なんとか難を逃れていると廊下から歓声のようなものが聞こえる。
美月「来たね」
その一言とともに、やってきたのは天馬理世。
美月「はあ、天馬理世って毎日神ってるよね。マジで目の保養」
紬「そ、そうだね」
目の保養なのかはいまいち分からない。
初恋さえ経験していない紬からすると、恋がどういうものなのか、かっこいいと盛り上がれる気持ちがどういうことなのか、ずっと分からないままでいる。
紬(こんなの、やっぱり変なのかな…)
美月「あんなイケメンなのに彼女いないとか何事なんだろ」
紬「あはは……(苦笑い)」
美月「でもさ、性格最悪なんだよねえ」
入学してから絶対的なモテ王子であるにも関わらず、彼女がいない理由は性格だった。
これまで理世に告白してきた女子生徒が見事に玉砕して泣いていたり、触れそうになって勢いよく女の子を突き飛ばしたりと、散々なシーン。
美月「まあでも顔がいいって罪だよね。性格悪くても、結局顔がよかったら良しみたいなとこあるし」
紬(……性格、か)
(回想)
〇桜並木(朝)
入学式。
中学卒業とともにこの地にやってきた紬は、知り合いが一人もいない学校生活に不安を抱えていた。
紬(どうしよう……うまくやれるかな)
バス停から一歩も動けなくなっている紬。
元から引っ込み思案で、表に出ることは苦手で友達作りもうまくなかった。
紬(いつも、そうちゃんとか由梨ちゃんがいてくれたからな)
紬(今日次第で、これから3年間が決まっちゃうって思うと緊張……)
頭を抱えていると、ポロっと足元に何かが転がる。なんだろうと思っている飴が包まれている包装紙。
見上げると、桜の花びらと一緒に見えた整った顔に息を呑む。こんな綺麗な人いるんだ、と思うと同時に、睨まれる。
理世は落とした飴を見て、そのままスタスタ行ってしまう。
紬「あっ……落としました……よ」
勇気を振り絞って声をかけると、足を止める理世。その顔は迷惑そうといった顔。
理世「いらねー」
紬「え……」
そう言っては今度こそ遠ざかっていく背中。
どうしようか悩んで、結局拾うことにしては、キョロキョロと辺りを見渡す。
なんとなく、くれたような気がする。
紬(食べてもいいかな…?いい、よね?でも……)
と葛藤しながらも、えいっと口に含むと、だんだん緊張が和らぐ。
あのときの飴があったから、なんとか緊張しながらも学校に行けて、美月とも友達になれた。
いつかお礼が言いたいと思いつつも、入学してから一度も、まともに会話さえできていない。
(回想終了)
〇廊下(夕方)
ポスターやらが入った段ボールを持って歩く紬。
紬(ううう、運悪く先生に捕まっちゃった)
担任が、「これ実験室な。よろしく頼んだ!」と軽やかに頼み、軽やかに去っていく姿が流れている。
昔から頼まれると断れない性格で、掃除当番も運動会のリレーも、誰もやりたくないことを押し付けられると断れなかった。
〇視聴覚室(夕方)
紬「あ、そういえば実験室って開いてるのかな?鍵ないけど……あれ」
実験室の扉が少しだけ開いている。
足でひょいっと扉をスライドさせ、中に入る。
紬「真っ暗……どこに置いたらいいだ……ろ!?」
抱えている段ボールで下が見えず、何かにつまづいた紬。
そのままバランスを崩して転倒しかけるものの、痛くない。目を開けると、
理世「!」
暗闇の中に差し込んだ光で倒れていた人の顔を照らす。
仰向けで寝ていた理世が、紬を見て目を見開いている。
理世「……ッ、…どけ」
そこには、赤面した律の姿があり、ボーッと見惚れる紬。
理世「見んな、くそ」
紬「……かわいい」
普段、冷たい目をして女子を遠ざけている理世が、紬を前にして顔を真っ赤にしている。
潤んだ瞳に自分(紬)が映っていて、それをもっと近くで見たくて顔を近付ける。
紬(きれー……ガラス玉みたい)
紬「……」
理世「ちかい!」
紬(ぽーっとした顔)
理世「いいからどけって!」
紬「!」
紬がハッとしたような顔。あの天馬律に馬乗りになっている状況にてんやわんや。
紬「あっ……ごめんなさい、あの」
理世「誰にも言うなよ!」
強引に紬から逃げるようにして理世が視聴覚室から出ていく。
〇紬の自宅・紬部屋(夜)
紬「やっちゃったあああ……」
ボロボロ泣きながらベッドの上をゴロゴロと回転している紬。
紬「なんであんなことしちゃったんだろう」
赤面した理世を思い出しては、ぼんっと顔が赤くなり、それからまた涙が出る。
紬「……お礼、言いたかったな」
あの日、もらった飴の包み紙を手にする。
ずっと捨てられないまま大事にしまってあった。
〇学校・昇降口(朝)
はあ、と自然とこぼれていくため息。
どんな顔をして教室に行けばいいんだろうと思っていると、昇降口から一番近い部屋から突然出てくる腕。
驚く暇もないまま引きずりこまれると、その先には理世がいた。
理世「おせー」
無愛想な顔で立っている律。その姿に余計にパニックになる紬。
紬(な、なんで……もしかして昨日のことで激怒してるとか?)
紬「あ、あの!昨日は本当にごめんな──」
理世「付き合え」
紬「……え?」
理世「お前、俺の彼女になれ」



