白い菫が紫色に染まる時

「あ、去年からネット通販とかも始めて、チーズの賞も取って、結構売り上げ好調なんだよね。今度、菫も買ってよ」
「へ~、いいね。家帰ったら、何か早速頼もうかな」

その後、お互いの仕事の話になった。
白澄はやっと父親から大事なことも任されるようになったみたいでやりがいを感じていると言っていた。

「そろそろ、帰らなきゃ」

すっかり、話に夢中になってしまい気づかなかったが、時計の針は十時ちょっと前を指していた。
カフェもそろそろ閉まるし、遅すぎると、蓮くんが心配するだろう。
今日は帰りに駅まで迎えに来てくれると言っていたので、あまりにも遅くに帰ると申し訳ない。

「マフラー忘れてる」
「あ、ごめん。うっかりしてた」

席に置き忘れてしまった紫のマフラーを白澄から受け取る。
けれど、マフラーを差し出した白澄の視線が固まってしまった。

「どうしたの?」
「いや・・・、なんでもない」

私と白澄は会計を済ませて、外に出た。

「う~、寒いね」
「そうだな」

表参道は建物が多く並ぶので、隙間風がとにかく強い。

「なあ、」
「ん?」

なびく髪をかき分けて、白澄の方を見る。

「結婚してるの?」
「え、突然なんで??」

そう聞くと、彼は私の手を指差した。

「指輪してるから。」
「あ~、なるほど」

私は自分でその指輪をはめている指を見つめる。

「うん・・・。してるよ」
「そっか・・・・」

私はそう言ったときの彼の反応を見られなかった。
見たくなくて、自分の指を見つめていた。

「じゃあ、そのマフラーは旦那からのプレゼント?」
「え?これは私のじゃなくて、その彼のマフラー貸してもらってて・・・。でも、なんでプレゼントだと思ったの?」

少し、ほんの少し私の前を歩いていた白澄が立ち止まって私の方に振り返った。

「菫が自分で選ばなそうな色だから・・・・。まあ、幼馴染の勘ってやつだよ」

私と白澄の間に冷たい風が吹いている。

「菫は、今幸せ?」

彼の声は震えていた。
それが寒さからなのか、それとも違う何かが理由なのかはわからなかった。

「うん。幸せにしてるよ」

笑って答えられているだろうか。
私は、過去の私が望んだ生活を送れている。幸せだし恵まれている。
しかし、こんなにも物寂しそうな白澄を見て、私の心の中にも寂しさが積もっていく。