白い菫が紫色に染まる時

楓さんのこの様子を見るに、楓さんは桜さんと親しいのだろう。
確かに、桜さんのあの性格と楓さんの人見知りしない性格なら初対面でも気兼ねなく話しているのが想像できる。
桜さんについて話しているとき、ちょうどインターホンが鳴った。

桜さんが来たようだ。

「遅れてごめんね~。もう、お腹ぺこぺこだよ」

相変わらず、桜さんは台風の中心にいるような人物だ。
ここに、いるだけで周りを自分のペースに巻き込む。

「ってか、楓くん~。すごい久しぶりじゃん。元気だった~?」
「変わらずですよ。桜さんも相変わらずというか・・・・」

楓さんは呆れ気味に苦笑しているが、どこか嬉しそうだった。
その一方で、彼女は「わ~、すっごい。蟹鍋?いただきます」と言って、早速蟹を食べ始めていた。

「蓮くんと菫ちゃんは、経済学部なんだよね?私も、三橋大学の経済学部だったのよ。だから、なんか困ったことあったら頼ってね」
「困ったことあったらって・・。桜さんが大学にいたのは十年前くらいじゃないですか。その時と今じゃ全然違うだろ」
そして、楓さんは蓮くんに「なあ」と言って同意を求めた。
「いや、でも就活の時とかは相談に乗ってほしいです」

楓さんは、蓮くんが同意してくれなかったのが気に入らなかったのか、というよりも、自分ではなく桜さんを頼りにしたのが気に食わなかったのだろう。
なんでだよと突っ込みながら、就活なら俺が一個年上なんだし、相談乗ってやるよと兄貴風を吹かせている。

「でも、私と蓮くんが行きたい業界って楓さんと全然違うと思いますよ」

おそらく、理工学部で彼の話から予想するに建築物大好きな楓さんは、建築関係の仕事に就きたいのではないだろうか。
しかし、経済学部の私たちは特別な資格などが必要な建築系の仕事には就くことはないと思う。
蓮くんは実際のところどうなのか断定して言えないが、少なくとも建築系に興味があるようには見えない。
私も同じだ。
私が言いたいことを理解したのか、楓さんは納得した。 
              
「でしょ。だから私が最適なのよ。どうせ、これからもずっとこのアパートにいる予定だから、いつでも相談乗るわよ」
「ずっとって、桜さんは年齢的にそろそろ結婚する時期じゃねえの?そしたら、このアパートにずっといるわけにはいかないだろ。夫婦で住むにはさすがに狭すぎる」

そう楓さんが言ったが、桜さんは蟹を頬いっぱいにほおばり、蟹鍋に夢中になっていて彼女には聞こえなかったようだ。
その言葉に何か言葉を返すわけでもなく、自然と話題は変わった。
でも、桜さんはわざと答えなかったのではないかと私はふと思った。なんとなくだけれど。