私と蓮くんは「まさかの蟹鍋?」と驚いたが、楓さんが自腹で蟹を買ってくれるということなのでそこは素直にお言葉に甘えた。
鍋を幾度も二人で準備してきたので、基本的な調理過程には慣れていたが、蟹をどう扱えばいいのかお互いわからず苦戦しながら、料理をしていた。
けれど、その試行錯誤する時間も私にとっては楽しかった。

「よし、完成かな」
「うん。良い感じにできたんじゃないかな」

鍋も完成したし、ちょっと休憩しようとなり、二人で椅子に座り、お茶を飲んだ。
お互いに未成年なので、大晦日だからといって調子に乗りお酒を飲むことはない。

「あ、そうそう。今日ね、蓮くんの下の階に住んでいる桜さんって人も呼んだんだけど、話したことある?」
「あ~、あるよ。あの、すごく距離をつめるのが上手い人だよね。会うたびに、すごく話しかけてくれる」

蓮くんの言っていることがすごくわかるし、蓮くんが桜さんに勢いよく話しかけられて困惑している光景が想像できる。
私も桜さんと初めて会った時、怒涛の勢いで話しかけられた。
そんな間に、約束の時間になり鍋とか皿を机の上に並べていると、楓さんが訪ねてきた。
約束の時間には三十分ほど遅れての到着だった。

「ごめん、ごめん。遅くなって」
「大丈夫ですよ。全然」
「ゼミが長引いて。年末まで大学に行かなきゃいけないなって大変だわ」
楓さんは急いで用意された席に座った。
「じゃあ、とりあえずは揃ったし、食べようか」
「そうだね」

そして、三人で手を合わせていただきますと言い、鍋の蓋を開けると、一言目に楓さん「おお、すげえな。」と感嘆の声をもらした。
何よりも大きな蟹の存在感が圧倒的だった。
これは、我ながらなかなかの出来だと思う。
具をそれぞれで取り分けて、口に運ぶ。

「蟹、美味しい~」
「うん、美味しい」
「うめえ」

三人同時に出た言葉だった。
それが、どこか可笑しくもあり、面白くて目を見合わせて笑った。

「美味しくできて、よかった。菫のおかげだね」
「いやいや、蓮くんのおかげだよ」 
   
私一人では蟹の調理は出来なかっただろう。
鍋の汁を飲みながら、そんなことを思った。

「そういえば、今日は桜さん来るんだっけ?俺は会うの久しぶりだな」
「え、楓さんは最後に会ったのいつですか?」
「あの人が、なんか仕事で海外に行く前だから、かれこれ半年ちょっとくらい会ってないかな。楽しみだな、久しぶりに話せるの」