白い菫が紫色に染まる時

「八月の中旬くらいかな。それで、ここからが大事な話なんだけど・・」

ここまで来て、急に彼女は話しづらそうに口ごもり始めた。

「それで、付き合って一週間くらい経って、彼の家に行った時、いいだろって言われて」
「いいだろって、何が?」

彼女はさらに口ごもり始め、頬を赤らめた。

「だからさ、それは、あれよ・・・・」

彼女の様子を見て、何を言いたかったのか理解できた。
しかし、こんなラーメン屋で言葉に出させるのは憚られる。

「あ・・・なるほど。それで・・・、どうしたの?」
「したよ。断れなくて。断ったら嫌われちゃうかな~と思って」

付き合ってから一週間ほどで体の関係を持とうとする男なんて信用できないと個人的には思う。
だけれど、紅葉の彼氏だし、友人が付き合っている相手のことを第三者が悪く言うのは干渉しすぎのような気がした。
そもそも、私は誰かと付き合ったこともない。そのため、自分の感覚が合っているのか自信がなかった。

「それで、その彼氏とは今どうなの?」
この質問に彼女は急に黙った。
「わ・・・・・」
「え?」

ボソッと言葉を発したが聞こえず、私は聞き返した。

「別れた」

今度はしっかりと言葉を聞き取れた。

「え、別れた?」

付き合うまでも速かったけれど、別れるのも速い・・・。
驚きのあまり、私はここがラーメン屋ということも忘れて、大きな声をあげた。

「振られたの~。ラインで」

それから、彼女は人目を憚らず泣き始め、ラーメンを食べ終えても、ラーメン屋を出た後も、涙がおさまる気配はなく、このまま外にいるのも周りの視線があるので、彼女を私の家に連れていくことにした。

「お邪魔します・・・・」
「はい、どうぞ」

彼女を座らせ、私は冷蔵庫からお茶を持ってきた。

「好きだったのに」
「うん」
「体だけだったのかな。そういうことできればよかったのかな」
「う~ん。まあ、その人に会ったことないから、わからないけど、否定はできない」

私は、思ったことを正直に言った。
彼女のためにも、嘘で慰めるよりそちらの方が良いと思ったのだ。

「だよね~。やっぱり」
「うん」

少しの沈黙の後、泣きつくして感情を吐き出して落ち着いたのか、彼女は「次に切り替える」と言った。
つい先ほどまでの彼女は何だったのかと思うほど、すっかり元気になっていた。
空元気のようにも見えるが、先ほどの状態よりはマシだ。