白い菫が紫色に染まる時

私も慌てて彼の後ろについていく。
庭の方へ向かうと、一人の男の子が、かがみながら草むしりをしているのが見えた。
きっとその人が「蓮くん」だろう。

「あの、私たちもエアコンが動かなくなって避難してきて、手伝います」

声をかけると、その草むしりをしている男の人が立ち上がり振り返った。
確かに、ザ・好青年と形容したくなるような顔をしている彼の顔をじっと見つめていると、初めて見た顔ではないことに気づいた。


「あ・・・」


その男の人と驚いた声が重なる。
あの教室で見た人だとすぐにわかった。

「何、お前ら、知り合いなの?俺はちゃんと話すのどっちも初めてだよな。楓です。佐藤楓。よろしく」

楓さんの言葉で自己紹介する流れになったので、私も同様にすることにした。

「菫です。遠野菫。よろしくお願いします」

そして、あの彼が次に続いた。

「僕は蓮です。紫花蓮。これからよろしくお願いします」

紫花蓮・・・・・。ハスキーな声から出る音を聞いて、何て綺麗な名前なのだろうと思った。
一通り、自己紹介が終わり、早速作業に取り組もうと、蓮さんから軍手を受け取る。

「どうぞ」
「どうも」

私は掃除をしながらも、思わぬ偶然の出会いに戸惑いを隠せなかった。
彼が同じアパートに住んでいたなんて。
そして、彼も私のことを知っているようだった。
もちろん、このアパートでは会ったことがないし、教室でもあの飲み会の場所でも私が一方的に気にかけていただけだ。
それとも、私が覚えていないだけで、他の場所で会ったことがあるのだろうか。
頭ではそんなことを考えながらも、手を止めることなく動かし、草むしりを終えて、埃が溜まった棚を整理し、キッチンも拭いて掃除を一通り終えた。

「良い感じじゃないか?」

やり切った表情で楓さんが辺りを見回す。

「そうですね」

共同作業に取り組むと、全く話したことがなかった人同士でも、距離が近くなるような気がする。
小中学校の時に班ごとに掃除をさせられていた理由がわかる。

「そういえば、お腹空きませんか?」

私は一働きして、空腹を我慢するのが限界になってきていた。

「僕もお腹空きました」
「俺も、腹減ったわ~」

その流れで、一緒にご飯を食べることになった。ついさっき自己紹介した関係だとは思えないほど距離が縮まっている。