白い菫が紫色に染まる時

「さっき、他の人からも、部屋のエアコンも動かないって報告があったんだよ。だから、配管が壊れているのかもしれないね。工事の人手配して、今日中には直してもらうから」

桃李さんは何も悪くないのに、申し訳なさそうに謝る。

「工事の間、私の部屋にいるかい?工事中は、業者が出たり入ったりするだろうし、君たちは私の部屋にいるといいよ。既に、一人ここに避難しているしね。私は工事に立ち会わなければならないから」        
「いいんですか。助かります、桃李さん」

この提案に対して二つ返事で嬉しそうに答えた彼は人懐っこい笑顔を浮かべていて、こんな表情をする人なんだと意外に思った。
少なくとも、彼の家に来ている女性たちにはそんな顔をしているのを見たことがない。
いつもどこか冷めきった作り笑いをしている。

「じゃあ、私もお世話になります。ありがとうございます」

カフェなどで時間を潰すとなると、コーヒー一杯分お金を払わなければならないし、すぐ近くに避難場所があるのなら、そこで休ませてもらった方が良い。でも、何もしないでのんびり家でくつろぐのは申し訳ない。

「あの・・、お邪魔する代わりに何かできることありますか?」
「おお、じゃあ、私の家の掃除をしてもらってもいいかな。庭に雑草とかも生えているんだが、腰が痛くて処理できないんだ」

そんなことで良いのなら、いくらでもやる。いつもお世話になっているのだから。

「わかりました。任せてください、桃李さん。じゃあ、やりますか?」

私は遠慮気味に彼に聞いた。

「よし、じいちゃん。俺に任せろ」

良かった。ここで「何で俺が」とか言って睨まれたらどうしようかと思った。

「今、中で蓮くんが既に掃除してくれているから。彼から掃除用具とかもらってね」

蓮くんとは誰だろう。

「蓮くんは君たちの向かいの上の階に住んでいる子だよ」

私が疑問に思ったのが顔に出ていたのだろうか。
桃李さんが心の声に答えてくれた。
今まで、全然ご近所付き合いがなかったので、知らなかった。 
       
「あ~、あのザ・好青年みたいなやつか」

楓さんは蓮くんという人に会ったことがあるようだ。そのように呟いた後、部屋にずかずかと入って行った。

「お邪魔します」