白い菫が紫色に染まる時

「驚いたけど、菫が選んだ道なら応援するよ」

下駄がアスファルトを蹴る音が響く。
お互いをうかがうような会話をしているうちに、白澄の家に着いた。
私はここからあと五分ほど歩かなければならない。

「じゃあ、ここで。またね」
「うん・・・。勉強頑張って」
「ありがとう」

私は手を肩の辺りで小さく振り、背を向けて歩き出したはずだった。
突然、後ろから強い力で腕をつかまれた。
その強さに驚き、進めずに振り返る。
私の手を引いた彼の顔はいつになく思いつめた顔をしていた。  
                                   
「どうしたの?」

これ以上話してはいけない予感がする。
これからに影響しそうなことが起こる予感がした。
にもかかわらず、その決定的な一言を回避することはできなかった・・・・。


「行くなよ、東京に。ここにいろよ」


彼から目がそらせない。

「さっきは応援するって言ったけど、やっぱり出来ない。ごめん」

嫌だ。これ以上、この話をしてはいけないと赤いサイレンが頭の中で鳴り響いている。
目を逸らさないと、この眼差しに飲み込まれてしまいそうになる。
私はやっとの思いで彼から目を逸らした。

「もう、白澄ったら。陽翔と私が物理的に遠いところに行くから寂しいんでしょ~。東京行っても、帰ろうと思えばすぐ帰ってこられるし。というか、まだ行くって決まったわけじゃないし」

この場の雰囲気を変えるため、いつも以上に明るく振る舞ったが、空回っているのは自分でもわかった。内心は動揺していた。

「ね?」

そう言いながら、私の腕を掴んでいる白澄の手をゆっくり外す。

「もし、東京に行ったら、菫は帰って来ないよ」
「え?」
「帰って来るつもりないだろ。わかるよ。ずっと一緒にいるんだから」

動揺を隠せなかった。
まさかそんなことを言い当てられるなんて思ってもみなかったのだ。
私は父親から、あの家から、離れるために東京に行きたいのだ。
もし、東京に行ったら、こんな寒いところには一生帰らないつもりでいた。
何とか口元は笑顔を保っているが、動揺が目に表れ、揺らいでしまう。

「だから、大袈裟だよ。忙しくて、帰って来られないかもしれないけど、今は携帯だってあるし、今生の別れってわ・・・」
捲し立てるように、中身のない言葉を紡いでいたら、白澄の一言に遮られた。

「好きだよ。」