白い菫が紫色に染まる時

「お、始まった」

白澄が呟く。
そして、二つ目の花火が上がる。

「綺麗だね」

私が呟く。
次に、最初の二つより少し大きな花火が開く。
そして、一つの光の塊が他方に飛び、離れ離れに散った。

「最後に三人で見られて良かったな」

陽翔が呟いた。
その声に、私と白澄は花火から目を離し、陽翔の方を見た。

「俺、札幌にある大学目指すことに決めた。だから、そこ合格できたら一人暮らし始めるし、なかなかこっち帰ってこられなくなるからさ。だから、今年で最後だな。三人でこれ見るの」 
               
そう言いながら、花火を見ている彼の笑顔は眩しかった。
未来が希望で溢れていることを信じている表情だ。

「札幌か。遠いな」

陽翔の告白に対して白澄が呟いた。
陽翔は明確に志望校を決め、白澄はチーズ工場を継ぐことを決めている。
二人とも正確な未来設計図があるのに、私の設計図はまだぼんやりとしていて定まっていない。

「菫はさ、どこの大学に行くの?」

そして、白澄がじっとこちらを見つめながら尋ねてきた。
真剣な眼差しが向けられて、私はなぜか緊張して胸が張り詰めた気持ちになった。

「私は、国立大学に行きたいってことしかまだ・・・。でも、東京の方に行くかもしれない」

私はずっと迷っていたのだ。初めて迷っていた言葉「東京」を口に出した。
あの家を出て、一人で生きていくチャンスが今なのではないか。
父親から離れて自由になれる。ずっと、ここから外に行ってみたかった。
しかし、十八年もこの場所で生きてしまったからか、外へ飛び出す決意が決まらない。
まるで、何年も羽を使わず飛ぶことを忘れてしまった鳥のように。

「東京・・・・・?」

白澄がその単語を繰り返す。東京という言葉の意味を受け止めるのに時間がかかっているようだった。私たちからしたら、想像のつかない遠い世界だ。

「うん」

そう言って、私はこちらを見つめる白澄に目を合わせる。

「二人とも、遠いな・・・・・」
「うん」
「菫、俺よりも遠いところ行くんだな!」

陽翔の口調からはワクワクした気持ちが伝わってくる。
私は白澄から視線をそらし、新たに上がった花火を見上げた。

「まだ、東京に行くというのは選択肢の一つだけどね。でも、ここより暖かい場所に行ってみたい」

光が散るのに少し遅れて、大きな音が響いた。
バンッ・・・・・。