***
「今日は月森が欠席ー」
朝のホームルームの、担任の先生の一言で、私は月森くんの席を見た。
月森くんが欠席?
教室を寝床にしている人が?
私は手を上げて先生に尋ねた。
「月森くんが欠席って、どうしたんですか?」
「あー、なんか具合が悪いらしくて今日は保健室だ」
いつも元気そうなのに体調不良なんて心配だ。
昼休みにでもお見舞いに行こうかな。
――昼休みになって、私は保健室に向かおうとした。
「待った、由比加。どこに行くつもり?」
真守が私の前に立ち塞がった。
「保健室に、月森くんのお見舞いに行こうかなって」
「……月森と仲いいのか?」
ムッとした表情で真守は言う。
そんな顔、今まで見せたことが無かった。
「月森くんには、何度かお世話になってて……」
「そう、じゃあ俺も行く」
「真守は来なくてもいいんじゃないかな」
「なに、俺がいると邪魔?」
「そういうわけじゃないんだけど……人数多いと迷惑かなって」
「一人増えたくらいで大丈夫だよ。それより、由比加を一人にするのが心配だ」
「じゃあ、一緒に行く?」
真守と一緒に来た保健室では、月森くんが寝息を立ててベッドに横になっていた。
「寝てる。お邪魔だったみたいだな」
「うん、そうだね……」
だけど、私はその寝顔が見てみたくてベッドの方に歩いて行った。
月森くん。意地悪そうに笑うくせに、寝顔は可愛いんだな。
私は微笑ましくて、ふふと笑う。
そうして月森くんを見ていると、突然、月森くんの鼻がヒクヒクと動いた。
そう、思った瞬間、月森くんがカッと目を見開いた。
そして、そばに居た私の腕を引っ張って噛みつこうとする。
「由比加!」
真守が月森くんの下あごを殴りつけた。
その衝撃で月森くんが仰け反った。
ベッドのポールに頭をぶつけたゴンっという鈍い音がした。
「痛っ……誰?」
月森くんが後頭部を押さえながら、上半身を起こす。
真守といえば、険しい表情で月森くんを見据えていた。
「月森、お前吸血鬼だったんだな」
「……そうだけど」
月森くんは脇目でちらりと私を見た。
どうやら事の合点がいったようで、深くため息を吐いて顔を覆った。
「俺、また由比加に噛みつこうとしたのか」
「また?」
真守はジロリと私を見た。
「あ……夜に学校に行ったときに、ちょっと、ね」
「二つの赤い点、そういうことだったか。気づくべきだった……」
真守は制服のブレザーの内側に手を突っ込み、銀色のものを取り出した。
私が持っているのと同じ、銀のナイフだ。
「由比加に危害を加えるなら、容赦はしない!」
真守がナイフを振りかぶる。
私は必死で真守の腕にしがみついた。
「止めて、真守! 月森くんは悪い人じゃないよ」
男の子の力は強くて、動きを緩めるので精いっぱいだ。
「由比加……月森に絆されているのか?」
「そんなんじゃないよ……月森くんは私を助けてくれた。学校に行った夜、家まで送り届けてくれたのは月森くんなんだよ?」
「じゃあ、あの日、首筋にあった噛み跡は何なんだ」
「月森くん、寝惚けていると噛みつこうとする癖があるみたい。でも、未遂! ね、月森くん」
月森くんの方を見ると、月森くんは片腕で顔を塞いで、肩を上下に揺らしていた。
「ククッ……ハハッ」
急に笑い出した月森くんに、私も真守も呆気に取られていると、月森くんの手が私の顎に添えられた。
そのままグイッと引き寄せられたと思えば、私のほっぺたに柔らかい感触がした。
月森くんからの、キス。
「由比加、油断しすぎ」
至近距離で、月森くんの八重歯が見えた。
呆けていると、またもや私の肩は反対方向に引き寄せられた。
「お前に由比加は渡さない!」
真守が銀のナイフを月森くんに突きつけたまま宣言した。
「ふーん、こんなに簡単にキスされちゃって、よく言うよ」
「くっ……次はないから覚悟しておけよ!」
「ちょ、ちょっと、止めてよ二人とも」
今度こそ、私を挟んでバチバチと火花が飛び散っている。
うーん。気のせいじゃないよね。
「由比加、行くぞ」
そうして私は真守に引きずられて保健室を後にするのだった。
「今日は月森が欠席ー」
朝のホームルームの、担任の先生の一言で、私は月森くんの席を見た。
月森くんが欠席?
教室を寝床にしている人が?
私は手を上げて先生に尋ねた。
「月森くんが欠席って、どうしたんですか?」
「あー、なんか具合が悪いらしくて今日は保健室だ」
いつも元気そうなのに体調不良なんて心配だ。
昼休みにでもお見舞いに行こうかな。
――昼休みになって、私は保健室に向かおうとした。
「待った、由比加。どこに行くつもり?」
真守が私の前に立ち塞がった。
「保健室に、月森くんのお見舞いに行こうかなって」
「……月森と仲いいのか?」
ムッとした表情で真守は言う。
そんな顔、今まで見せたことが無かった。
「月森くんには、何度かお世話になってて……」
「そう、じゃあ俺も行く」
「真守は来なくてもいいんじゃないかな」
「なに、俺がいると邪魔?」
「そういうわけじゃないんだけど……人数多いと迷惑かなって」
「一人増えたくらいで大丈夫だよ。それより、由比加を一人にするのが心配だ」
「じゃあ、一緒に行く?」
真守と一緒に来た保健室では、月森くんが寝息を立ててベッドに横になっていた。
「寝てる。お邪魔だったみたいだな」
「うん、そうだね……」
だけど、私はその寝顔が見てみたくてベッドの方に歩いて行った。
月森くん。意地悪そうに笑うくせに、寝顔は可愛いんだな。
私は微笑ましくて、ふふと笑う。
そうして月森くんを見ていると、突然、月森くんの鼻がヒクヒクと動いた。
そう、思った瞬間、月森くんがカッと目を見開いた。
そして、そばに居た私の腕を引っ張って噛みつこうとする。
「由比加!」
真守が月森くんの下あごを殴りつけた。
その衝撃で月森くんが仰け反った。
ベッドのポールに頭をぶつけたゴンっという鈍い音がした。
「痛っ……誰?」
月森くんが後頭部を押さえながら、上半身を起こす。
真守といえば、険しい表情で月森くんを見据えていた。
「月森、お前吸血鬼だったんだな」
「……そうだけど」
月森くんは脇目でちらりと私を見た。
どうやら事の合点がいったようで、深くため息を吐いて顔を覆った。
「俺、また由比加に噛みつこうとしたのか」
「また?」
真守はジロリと私を見た。
「あ……夜に学校に行ったときに、ちょっと、ね」
「二つの赤い点、そういうことだったか。気づくべきだった……」
真守は制服のブレザーの内側に手を突っ込み、銀色のものを取り出した。
私が持っているのと同じ、銀のナイフだ。
「由比加に危害を加えるなら、容赦はしない!」
真守がナイフを振りかぶる。
私は必死で真守の腕にしがみついた。
「止めて、真守! 月森くんは悪い人じゃないよ」
男の子の力は強くて、動きを緩めるので精いっぱいだ。
「由比加……月森に絆されているのか?」
「そんなんじゃないよ……月森くんは私を助けてくれた。学校に行った夜、家まで送り届けてくれたのは月森くんなんだよ?」
「じゃあ、あの日、首筋にあった噛み跡は何なんだ」
「月森くん、寝惚けていると噛みつこうとする癖があるみたい。でも、未遂! ね、月森くん」
月森くんの方を見ると、月森くんは片腕で顔を塞いで、肩を上下に揺らしていた。
「ククッ……ハハッ」
急に笑い出した月森くんに、私も真守も呆気に取られていると、月森くんの手が私の顎に添えられた。
そのままグイッと引き寄せられたと思えば、私のほっぺたに柔らかい感触がした。
月森くんからの、キス。
「由比加、油断しすぎ」
至近距離で、月森くんの八重歯が見えた。
呆けていると、またもや私の肩は反対方向に引き寄せられた。
「お前に由比加は渡さない!」
真守が銀のナイフを月森くんに突きつけたまま宣言した。
「ふーん、こんなに簡単にキスされちゃって、よく言うよ」
「くっ……次はないから覚悟しておけよ!」
「ちょ、ちょっと、止めてよ二人とも」
今度こそ、私を挟んでバチバチと火花が飛び散っている。
うーん。気のせいじゃないよね。
「由比加、行くぞ」
そうして私は真守に引きずられて保健室を後にするのだった。
