力のない聖女は騎士と吸血鬼に愛される

 ***

「今日は月森が欠席ー」



 朝のホームルームの、担任の先生の一言で、私は月森くんの席を見た。

 月森くんが欠席?

 教室を寝床にしている人が?

 私は手を上げて先生に尋ねた。



「月森くんが欠席って、どうしたんですか?」

「あー、なんか具合が悪いらしくて今日は保健室だ」



 いつも元気そうなのに体調不良なんて心配だ。

 昼休みにでもお見舞いに行こうかな。

 ――昼休みになって、私は保健室に向かおうとした。



「待った、由比加。どこに行くつもり?」



 真守が私の前に立ち塞がった。



「保健室に、月森くんのお見舞いに行こうかなって」

「……月森と仲いいのか?」



 ムッとした表情で真守は言う。

 そんな顔、今まで見せたことが無かった。



「月森くんには、何度かお世話になってて……」

「そう、じゃあ俺も行く」

「真守は来なくてもいいんじゃないかな」

「なに、俺がいると邪魔?」

「そういうわけじゃないんだけど……人数多いと迷惑かなって」

「一人増えたくらいで大丈夫だよ。それより、由比加を一人にするのが心配だ」

「じゃあ、一緒に行く?」



 真守と一緒に来た保健室では、月森くんが寝息を立ててベッドに横になっていた。



「寝てる。お邪魔だったみたいだな」

「うん、そうだね……」



 だけど、私はその寝顔が見てみたくてベッドの方に歩いて行った。

 月森くん。意地悪そうに笑うくせに、寝顔は可愛いんだな。

 私は微笑ましくて、ふふと笑う。

 そうして月森くんを見ていると、突然、月森くんの鼻がヒクヒクと動いた。

 そう、思った瞬間、月森くんがカッと目を見開いた。

 そして、そばに居た私の腕を引っ張って噛みつこうとする。



「由比加!」



 真守が月森くんの下あごを殴りつけた。

 その衝撃で月森くんが仰け反った。

 ベッドのポールに頭をぶつけたゴンっという鈍い音がした。



「痛っ……誰?」



 月森くんが後頭部を押さえながら、上半身を起こす。

 真守といえば、険しい表情で月森くんを見据えていた。



「月森、お前吸血鬼だったんだな」



「……そうだけど」



 月森くんは脇目でちらりと私を見た。

 どうやら事の合点がいったようで、深くため息を吐いて顔を覆った。



「俺、また由比加に噛みつこうとしたのか」

「また?」



 真守はジロリと私を見た。



「あ……夜に学校に行ったときに、ちょっと、ね」

「二つの赤い点、そういうことだったか。気づくべきだった……」



 真守は制服のブレザーの内側に手を突っ込み、銀色のものを取り出した。

 私が持っているのと同じ、銀のナイフだ。



「由比加に危害を加えるなら、容赦はしない!」



 真守がナイフを振りかぶる。

 私は必死で真守の腕にしがみついた。



「止めて、真守! 月森くんは悪い人じゃないよ」



 男の子の力は強くて、動きを緩めるので精いっぱいだ。



「由比加……月森に絆されているのか?」

「そんなんじゃないよ……月森くんは私を助けてくれた。学校に行った夜、家まで送り届けてくれたのは月森くんなんだよ?」

「じゃあ、あの日、首筋にあった噛み跡は何なんだ」

「月森くん、寝惚けていると噛みつこうとする癖があるみたい。でも、未遂! ね、月森くん」



 月森くんの方を見ると、月森くんは片腕で顔を塞いで、肩を上下に揺らしていた。



「ククッ……ハハッ」



 急に笑い出した月森くんに、私も真守も呆気に取られていると、月森くんの手が私の顎に添えられた。

 そのままグイッと引き寄せられたと思えば、私のほっぺたに柔らかい感触がした。

 月森くんからの、キス。



「由比加、油断しすぎ」



 至近距離で、月森くんの八重歯が見えた。

 呆けていると、またもや私の肩は反対方向に引き寄せられた。



「お前に由比加は渡さない!」



 真守が銀のナイフを月森くんに突きつけたまま宣言した。



「ふーん、こんなに簡単にキスされちゃって、よく言うよ」

「くっ……次はないから覚悟しておけよ!」

「ちょ、ちょっと、止めてよ二人とも」



 今度こそ、私を挟んでバチバチと火花が飛び散っている。

 うーん。気のせいじゃないよね。



「由比加、行くぞ」



 そうして私は真守に引きずられて保健室を後にするのだった。