***
私はスカートをはいたまま短パンを履くことで着替えを済ませた。
ホルスターはギリギリ短パンからはみ出なかった。よかった。
授業の内容はマラソンだった。
校庭を五周。男子は十周だから大変そうだ。
いつもなら嫌なマラソンだけれど、考えを吹き飛ばして無心になるには持って来いの競技だと思う。
「よーい、スタート」
先生の声を皮切りに私たちは走り出した。
クラス全員が一度に走り出すから壮観だった。
私は足がそんなに速くないから、あっという間に男子たちや足の速い女子たち
に抜かされていく。
三周を回る頃には何人に周抜かしされたのかも分からなくなっていた。
気がつけば隣には、月森くんが走っていた。
「あっ」
よそ見をしたせいで私の足はもつれた。
グラウンドが見える、と思った時にはもう片足が出せなくて、砂の上を膝からスライディングする。
膝に熱い衝撃が走って、これは絶対血が出たと分かった。
私はグランドの上にお尻をついて、膝を起こす。
じわじわと、私の膝に赤いものが滲み出てくる。
「大丈夫か?」
声をかけてくれた月森くんは、私の膝を見て猫のように瞳孔を縦に細めた。
人間離れした生理反応に、私は息を呑む。
月森くんが近寄ってくる。
私は座ったまま後ずさるも、月森くんの歩幅には敵わなくて、ついに月森くんは私の膝の前でしゃがみ込んだ。
そして、けがをした私の足を引っ張ると。
手に持っていたペットボトルの水を私の膝にかけた。
「えっ!? なにするの!?」
「消毒。早く洗い流した方がいいぞ」
確かに、砂は流れてちょっと綺麗になったけれど。
血はまたじわじわと滲み出てくる。
だんだん、痛いという気持ちも込み上げてきた。
月森くんが生唾を飲み込んだのが分かった。
そんな時。
「月森、どけて」
真守だ。
私は痛さのあまり幼馴染に泣きごとの一つでも言おうとしていた。
だけど、私が何か言う前に、真守は私の背中と太ももを支えて私を持ち上げた。
こ、これって……。
お姫様抱っこ?
「ちょっと、真守!」
「歩けないだろ。保健室、行くぞ」
真守は保健室に着くまでそのまま私を運んだのだった。
「先生……は、いないみたいだな」
私は椅子に座らされて、ほっと息を吐いた。
お姫様抱っこされている間、真守が近かった。
人に見られるのも恥ずかしいし、真守が近いのも恥ずかしい。
私は火照った顔を仰いだ。
「由比加。俺が手当てするけど、いいよね?」
「え、いいよ。自分でできるから」
「けが人は黙っとけって」
そう言うと真守は手慣れた様子で、消毒液と脱脂綿を手にしてピンセットで私の膝を叩いた。
「痛っ」
「我慢しろよー」
ポンポンと私の膝を叩く真守は楽しそうで、私は恨み言の一つでも言ってやろうかと思った。
でも真守の手当ては手早くて、私はあっという間に膝をガーゼで包まれて包帯を巻かれてしまった。
「よしっ、終わり」
「ありがと、真守」
私は足をブラブラとさせる。包帯も窮屈には感じなかった。
「これで、授業に戻れる……真守?」
真守は私の足をじっと見つめていた。
そして、私の短パンの裾に手を伸ばして、上の方へとずり上げた。
「あっ、真守っ」
私は太ももを触られるのが恥ずかしくて声を上げた。
真守は真剣な表情を崩さずに私の足を見ていた。
「……ナイフ、ちゃんと持っているな。感心した」
捲りあげられた短パンからはホルスターの黒が覗いていた。
「いいか、由比加。困ったら、いつでも俺を頼ってくれよ?」
「う、うん……」
いつもに増してまっすぐに私を見る真守に、それ以上私は何も言えなかった。
「じゃ、帰るぞー」
真守は私をまた持ち上げようとした。
「いい、いいよ! 歩けるから!」
「でも、由比加はけが人だから」
「恥ずかしいって言ってるの!」
「由比加のためになるなら、俺は別にいいんだけど……」
そう言って真守は私を甘やかそうとする。
「……今までは、こんなにベッタリじゃなかったよね? 少なくてもお姫様抱っこは無かった!」
「変かな」
「変っていうか……ちょっと戸惑う、なんか真守、男の子だなって感じがして」
「もっと、意識してくれたっていいんだけど」
「えっ」
「由比加が十八になるまで我慢してた」
真守は、包帯で巻かれた私の足にキスを落とした。
「今はこれで我慢。……けがの治療を我慢した由比加に免じてな」
私は金魚のように口をパクパク開け閉めしてしまうのだった。
私はスカートをはいたまま短パンを履くことで着替えを済ませた。
ホルスターはギリギリ短パンからはみ出なかった。よかった。
授業の内容はマラソンだった。
校庭を五周。男子は十周だから大変そうだ。
いつもなら嫌なマラソンだけれど、考えを吹き飛ばして無心になるには持って来いの競技だと思う。
「よーい、スタート」
先生の声を皮切りに私たちは走り出した。
クラス全員が一度に走り出すから壮観だった。
私は足がそんなに速くないから、あっという間に男子たちや足の速い女子たち
に抜かされていく。
三周を回る頃には何人に周抜かしされたのかも分からなくなっていた。
気がつけば隣には、月森くんが走っていた。
「あっ」
よそ見をしたせいで私の足はもつれた。
グラウンドが見える、と思った時にはもう片足が出せなくて、砂の上を膝からスライディングする。
膝に熱い衝撃が走って、これは絶対血が出たと分かった。
私はグランドの上にお尻をついて、膝を起こす。
じわじわと、私の膝に赤いものが滲み出てくる。
「大丈夫か?」
声をかけてくれた月森くんは、私の膝を見て猫のように瞳孔を縦に細めた。
人間離れした生理反応に、私は息を呑む。
月森くんが近寄ってくる。
私は座ったまま後ずさるも、月森くんの歩幅には敵わなくて、ついに月森くんは私の膝の前でしゃがみ込んだ。
そして、けがをした私の足を引っ張ると。
手に持っていたペットボトルの水を私の膝にかけた。
「えっ!? なにするの!?」
「消毒。早く洗い流した方がいいぞ」
確かに、砂は流れてちょっと綺麗になったけれど。
血はまたじわじわと滲み出てくる。
だんだん、痛いという気持ちも込み上げてきた。
月森くんが生唾を飲み込んだのが分かった。
そんな時。
「月森、どけて」
真守だ。
私は痛さのあまり幼馴染に泣きごとの一つでも言おうとしていた。
だけど、私が何か言う前に、真守は私の背中と太ももを支えて私を持ち上げた。
こ、これって……。
お姫様抱っこ?
「ちょっと、真守!」
「歩けないだろ。保健室、行くぞ」
真守は保健室に着くまでそのまま私を運んだのだった。
「先生……は、いないみたいだな」
私は椅子に座らされて、ほっと息を吐いた。
お姫様抱っこされている間、真守が近かった。
人に見られるのも恥ずかしいし、真守が近いのも恥ずかしい。
私は火照った顔を仰いだ。
「由比加。俺が手当てするけど、いいよね?」
「え、いいよ。自分でできるから」
「けが人は黙っとけって」
そう言うと真守は手慣れた様子で、消毒液と脱脂綿を手にしてピンセットで私の膝を叩いた。
「痛っ」
「我慢しろよー」
ポンポンと私の膝を叩く真守は楽しそうで、私は恨み言の一つでも言ってやろうかと思った。
でも真守の手当ては手早くて、私はあっという間に膝をガーゼで包まれて包帯を巻かれてしまった。
「よしっ、終わり」
「ありがと、真守」
私は足をブラブラとさせる。包帯も窮屈には感じなかった。
「これで、授業に戻れる……真守?」
真守は私の足をじっと見つめていた。
そして、私の短パンの裾に手を伸ばして、上の方へとずり上げた。
「あっ、真守っ」
私は太ももを触られるのが恥ずかしくて声を上げた。
真守は真剣な表情を崩さずに私の足を見ていた。
「……ナイフ、ちゃんと持っているな。感心した」
捲りあげられた短パンからはホルスターの黒が覗いていた。
「いいか、由比加。困ったら、いつでも俺を頼ってくれよ?」
「う、うん……」
いつもに増してまっすぐに私を見る真守に、それ以上私は何も言えなかった。
「じゃ、帰るぞー」
真守は私をまた持ち上げようとした。
「いい、いいよ! 歩けるから!」
「でも、由比加はけが人だから」
「恥ずかしいって言ってるの!」
「由比加のためになるなら、俺は別にいいんだけど……」
そう言って真守は私を甘やかそうとする。
「……今までは、こんなにベッタリじゃなかったよね? 少なくてもお姫様抱っこは無かった!」
「変かな」
「変っていうか……ちょっと戸惑う、なんか真守、男の子だなって感じがして」
「もっと、意識してくれたっていいんだけど」
「えっ」
「由比加が十八になるまで我慢してた」
真守は、包帯で巻かれた私の足にキスを落とした。
「今はこれで我慢。……けがの治療を我慢した由比加に免じてな」
私は金魚のように口をパクパク開け閉めしてしまうのだった。
